サイゼリヤの冷製パスタは2020年8月5日、東京・千葉・兵庫の一部店舗限定で初登場した。これはサイゼリヤにとって史上初となる冷製パスタメニューであり、ファンの間では記念すべき日として語り継がれている。
初年度となる2020年には「パルマ産生ハムとルーコラの冷製スパゲッティ」と「カプレーゼ風冷製スパゲッティ」の2種類が税込500円で提供された。この価格設定は当時から驚異的で、専門のイタリアンレストランであれば1,000円以上はする本格的な冷製パスタを、サイゼリヤならではのコストパフォーマンスで実現した。
翌2021年には提供エリアが全国に拡大され、7月には「トラパネーゼソースの冷製スパゲッティ」と「パルマ産生ハムとルーコラの冷製スパゲッティ」、8月には「トラパネーゼソースの冷製スパゲッティ」と「カプレーゼ風冷製スパゲッティ」が登場した。
2022年には大きな変化があった。従来のスパゲッティから極細パスタの「カペッリーニ」に変更し、「ほぐし辛味チキンの冷製カペッリーニ」として600円で販売された。この変更により、より繊細で上品な食感を楽しめるようになった。
サイゼリヤの冷製パスタは、その圧倒的なコストパフォーマンスが最大の魅力である。通常サイズが500円から600円、大盛りでも700円という価格設定は、他のイタリアンレストランでは考えられない水準だ。
メニューの構成を見ると、サラダ仕立てのヘルシーな仕上がりが特徴的である。パスタの上には新鮮な野菜がたっぷりと盛り付けられており、見た目はまさにサラダそのもの。これにより夏場の食欲が落ちがちな時期でも、さっぱりと食べることができる設計になっている。
価格据え置きでありながら、使用する食材は本格的だ。パルマ産生ハム、水牛ミルク100%のモッツァレラチーズ、ペコリーノ・ロマーノといった高級食材を惜しみなく使用している。
サイゼリヤの冷製パスタが他と一線を画すのは、その味わいの完成度の高さにある。サイゼリヤマニアとして知られる篠宮氏も「まさか初めての冷製パスタでここまでのコンディションに仕上げて来るとは」と絶賛したほどだ。
パルマ産生ハムとルーコラの冷製パスタは、程よい酸味と生ハムの塩分が絶妙にバランスを取った逸品である。パスタを覆い隠すほどたっぷりと盛り付けられた生ハムの下には、ルーコラとトマトが隠れており、ペコリーノ・ロマーノ(削りチーズ)が最高のアクセントとなっている。
カプレーゼ風冷製パスタは、濃厚なモッツァレラチーズと鮮烈なバジルソース(ジェノベーゼ)が印象的な一皿だ。水牛ミルク100%のモッツァレラチーズがごろっと転がっており、トマトとの組み合わせで本格的なカプレーゼの味わいを冷製パスタで楽しめる。
ほぐし辛味チキンの冷製カペッリーニは、2022年に登場した革新的なメニューである。マイルドな辛味のほぐしチキンにレタス、トマト、フレッシュルーコラが加えられ、特製ドレッシングでさっぱりと仕上げられている。カペッリーニ(極細パスタ)は「細い髪の毛」を意味するイタリア語で、その名の通り非常に細く、冷製パスタに最適な食感を提供する。
興味深いのは、辛味チキンという温かい料理の代表的存在を冷製パスタに転用したアイデアだ。冷製にすることで辛味が抑えられ、香辛料の香りはするものの辛さはほぼなく、サラダチキンのようなしっとりとした食感に変化する。
サイゼリヤの冷製パスタが美味しい理由の一つは、複層的なソース構成にある。表面だけでなく、パスタの底部分にも異なるソースが仕込まれており、一皿で多様な味わいを楽しめる設計になっている。
「ほぐし辛味チキンの冷製カペッリーニ」を例に取ると、野菜の上にはコクがあるフレンチドレッシングのようなソースがかかっているが、底の方にはレモンのような柑橘を感じるさっぱりとしたソースが和えられている。これにより、食べ進めるごとに異なる味の変化を楽しめる仕組みになっている。
全体的に「酸味」がキーポイントとなっており、これがサイゼリヤ的な冷やし中華とも評される理由だ。夏場の食欲が落ちる時期に、爽やかな酸味で食欲を喚起する効果も期待できる。
さらに興味深いのは、サイゼリヤの無料調味料「ホットソース」を追加することで、味の変化を楽しめる点だ。ホットソースを加えると、キレのある唐辛子の辛さとツーンとした酸味が増し、底に入っている柑橘系のソースとも相性が良い。ただし、サイゼリヤのホットソースは刺激が強いため、少量ずつ調整しながら使用することが推奨される。
パルマ産生ハムとルーコラの冷製パスタでは、生ハムの塩味と脂の風味がしっかりと感じられながらも、トータルではサラダ風でさっぱりとした仕上がりになっている。この絶妙なバランスが、500円という価格を超越したクオリティを実現している秘密と言えるだろう。
サイゼリヤの冷製パスタが他のイタリアンレストランと大きく異なるのは、「サラダ仕立て」というコンセプトの徹底にある。通常の冷製パスタがパスタ中心の構成であるのに対し、サイゼリヤ版は野菜が主役級の扱いを受けている。
この発想の転換により、従来の冷製パスタでは味わえない「食べごたえのあるサラダ」としての新しい価値を創出している。特に「ほぐし辛味チキンの冷製カペッリーニ」では、インド料理屋のセットサラダを彷彿とさせる味わいが楽しめるという、意外な発見もある。
また、サイゼリヤならではの「アレンジ自由度の高さ」も大きな特徴だ。テーブルに常備されている調味料を使って、自分好みの味にカスタマイズできる自由度は、他のレストランでは味わえない楽しみ方である。
価格面でも圧倒的な差別化を実現している。専門店であれば1,000円を超える本格的な冷製パスタを、500円から600円で提供するという価格革命は、サイゼリヤの企業努力と効率化の賜物と言える。
さらに、期間限定メニューとしての希少価値も、ファンの心を掴む重要な要素となっている。毎年夏の訪れとともに登場し、秋には姿を消すという限定性が、「今年はどんな冷製パスタが登場するのか」という期待感を生み出している。
これらの独自性が組み合わさることで、サイゼリヤの冷製パスタは単なる季節メニューを超越し、ファンが毎年心待ちにする「夏の風物詩」としての地位を確立している。2022年を最後に休止しているが、復活を望む声は根強く、サイゼリヤマニアの間では常に話題の中心となり続けている。