フォンティーナ チーズは「スイスのチーズフォンデュ用チーズ」だと思っていると、気づかないうちに毎回損をしています。
フォンティーナ チーズが生まれたのは、イタリア最北西部に位置するヴァッレ・ダオスタ州です。面積わずか3,263km²(長野県の約半分)で、イタリア20州のなかで最も小さい州ですが、モンブランやマッターホルンを含むヨーロッパアルプスに囲まれた豊かな山岳地帯です。
この地域では数百年もの間、放牧による伝統酪農が続いてきました。地元の品種であるヴァルドスターナ牛(赤い斑点と黒い斑点の2種類が有名)の生乳だけを使い、サイレージや発酵飼料は一切禁止。牧草と乾し草だけを食べた牛の乳でなければ、本物のフォンティーナとは認められません。
「フォンティーナ」という名前の由来は諸説あります。「Fontin」と呼ばれる牧草地や、「Fontinaz」という村の名前が語源とも言われます。また、古いフランス語で「熱をかけると溶ける」を意味する「Fontis」「Fondis」が由来という説もあります。どの説も、このチーズが土地と生活文化に深く根ざしてきた証拠です。
DOP(Denominazione di Origine Protetta)認定を受けているため、州全域で厳格な品質管理のもと生産されています。本物のフォンティーナには、ホイール(円盤形のチーズ)の上面に山のマークと品名が刻印されており、これが真正品の証です。つまり、ラベルと刻印の確認が基本です。
▶ ヴァッレ・ダオスタ産フォンティーナの産地と製造組合について詳しく(CUCINA ACCI)
フォンティーナ チーズを一口食べると、まず感じるのがナッツのような香ばしいコクです。次いで、はちみつのようなやさしい甘みが後に残ります。日本でよく見かけるプロセスチーズとはまったく異なる、複雑で立体的な風味です。
外観の特徴は次のとおりです。表皮は赤茶色でしっとりとしており、内部は薄い麦わら色。組織はやわらかく引き締まっていて、小さな穴(目)が点在しています。熟成が進むにつれ、色はアイボリーから濃い黄色へと変化し、味わいも深くなります。
形は背の低い円筒型で、直径35〜45cm、高さ7〜10cm、重さは7.5〜12kgもある大型チーズです。はがきの横幅が約14.8cmなので、直径は「はがき約2〜3枚分」のイメージです。最低80日間の熟成が義務付けられており、固形分中の乳脂肪は最低45%以上と決められています。
このチーズの最大の特徴は「溶けやすさ」です。加熱すると均一にとろけ、クリーミーに伸びる性質があります。これはセミハードタイプながら水分バランスと脂肪分が絶妙なためで、グラタンやリゾット、パスタに使うと全体をなめらかにまとめてくれます。溶けやすさが最大の魅力です。
生でそのまま食べると、土やきのこのニュアンスも感じられ、ワインとの相性も非常によいです。辛口の白ワインや、軽めの赤ワインと合わせるのが定番のペアリングです。
▶ フォンティーナの基本情報・味の特徴まとめ(雪印メグミルク チーズクラブ)
フォンティーナ チーズのなかでも、特別な呼び名で珍重されているのが「アルペッジョ(Alpeggio)」です。これは、毎年6月15日〜9月29日の夏の放牧期間中に高地の山小屋で作られたフォンティーナのことを指します。
なぜこの時期だけ特別なのか。夏山では、牛たちが標高1,500〜2,000m以上の高原地帯で多様な野生草やハーブを自由に食みます。この豊かなエサが乳の香りに直接影響し、チーズにトリュフやきのこに似た複雑なアロマと、山の清涼感のある後味をもたらすのです。
平地で通年生産される通常のフォンティーナと比べて、アルペッジョは生産量が限られるため市場に出回る量が少なく、専門のチーズショップや輸入食材店で見つかれば、ぜひ試してほしい逸品です。
実際に、オ・ヴァル・ダイヤ・チーズ組合(ブルッソン)では年間23,000個ものフォンティーナを生産し、2005年にはヴァッレ・ダオスタ州内で唯一のオーガニック認証を取得しています。新鮮な生乳の約80%がフォンティーナに使われているというデータからも、この地域でいかにフォンティーナが重要な産業かがわかります。
日本でアルペッジョを入手したい場合は、オンラインのチーズ専門通販(フェルミエ、ベルグスト・グループなど)を利用すると見つかりやすいです。ラベルに「Alpeggio」または「d'Alpeggio」の表記があるものを探してみましょう。これは使えそうです。
フォンティーナ チーズの代表料理が「フォンドゥータ(Fonduta alla Valdostana)」です。スイスのチーズフォンデュと混同されることが多いですが、フォンドゥータはフォンティーナを牛乳・バター・卵黄でとろりと溶かしたイタリア北部の冬の郷土料理で、白ワインを使わない点がスイス式との大きな違いです。
家庭でも比較的かんたんに作れます。以下に基本的な手順を紹介します。
| 材料(2〜3人分) | 分量 |
|---|---|
| フォンティーナ チーズ(皮を取り細かく切る) | 200g |
| 牛乳 | 100〜120ml |
| 無塩バター | 10g |
| 卵黄 | 1個 |
| ナツメグ・黒胡椒 | 各少々 |
| 付け合わせ(バゲット・蒸し野菜・じゃがいも) | 適量 |
作り方のポイントは、チーズを牛乳に2時間ほど浸けてから弱火で溶かすことです。急いで強火にするとチーズが分離してしまいます。卵黄はとろみと風味づけに入れますが、温度管理が重要で、80℃以上になると固まります。極弱火が条件です。
フォンドゥータは冬だけの料理という印象がありますが、春や秋の肌寒い日にも作れます。トリュフのスライスや白トリュフオイルを数滴たらすと、一気に本場の高級感が出ます。サイゼリヤのトルテッリでフォンティーナの味を知った後に、自宅でこのレシピを試すと、そのポテンシャルを存分に感じられるはずです。
▶ フォンドゥータの基本レシピ詳細(チーズ・オン・ザ・テーブル)
サイゼリヤが好きな人にとって、フォンティーナ チーズはすでに「食べたことがあるチーズ」かもしれません。サイゼリヤのメニュー「フォンティーナチーズのトルテッリ」は、フォンティーナを包んだ生パスタ(トルテッリ)をバターソースで仕上げた一品で、コクのあるやさしい味わいが特徴です。
これは単なるチーズ入りパスタではありません。DOP認定の産地チーズを使用し、その溶けやすさとナッツのような甘みを活かしたレシピです。サイゼリヤは食材へのこだわりとして、フレッシュなワインやオリーブオイル、チーズをイタリアから直輸入していることを公式サイトで明記しており、フォンティーナも本場の品質を大切にしています。
サイゼリヤはコスパの高いイタリアンとして知られますが、フォンティーナチーズのトルテッリを注文することで、実質「本格イタリアンチーズ料理」が手軽に体験できるわけです。
一方で、自分でフォンティーナ チーズを購入して料理してみると、より深く楽しめます。日本では専門チーズ通販や一部の輸入食材店で100gあたり1,480円前後(DOP品)で購入できます。一度に使い切れない場合はワックスペーパーで包んで冷蔵保存し、1〜2週間以内に使いきるのがベストです。冷凍は食感が変わるため、加熱調理用としてのみ検討してください。冷凍保存には注意が必要です。
サイゼリヤのメニューで出会い、通販で本物を試す。この流れが、フォンティーナ チーズを最も深く楽しむ王道ルートと言えるでしょう。