「辛いものを食べると、脂肪が燃えてカロリーを消費できますよ。」
カラブリア州は、ブーツ型をしたイタリア半島の「つま先」に位置する、イタリア本土の最南端の州です。ティレニア海とイオニア海の両方に面し、800kmに及ぶ美しい海岸線を持ちながら、内陸には標高1,955mのアスプロモンテ山を中心とした山岳地帯が広がっています。
この地形こそが、カラブリア料理の個性を決定づけた最大の要因といっても過言ではありません。山と海に挟まれた険しい地形は、歴史的に他地域との流通を困難にし、住民たちは地元で取れた食材だけで暮らす「地産地消」を余儀なくされてきました。それが結果として、村ごとに異なる独自の郷土料理を生み出す土台になったのです。
つまり、カラブリア料理の多様性は「不便さ」が育てた文化です。
イタリア全土でも唐辛子(ペペロンチーノ)を好む地域はカラブリアが突出しており、「カラブレーゼ(カラブリア人)」という呼び名は、イタリア北部では「度を越した辛いもの好き」と同義語で使われるほどです。ペペロンチーノ・カラブレーゼと呼ばれる品種は、スコヴィル値30,000〜40,000という本格的な辛さを誇り、鋭い辛味の中にフルーティーな甘みと芳しい香気を持っています。日本でよく使われる鷹の爪のスコヴィル値が約50,000前後ですから、「イタリア料理だから辛くない」と思って食べると、想像を超えた辛さに驚かされます。
サイゼリヤのメニューにも南イタリアをルーツとする辛みのある料理が登場しますが、そのスパイシーな旨みのルーツをたどると、カラブリア州の食文化に行き着くことが多いのです。これは使えそうです。
以下は、カラブリア州の基本情報をまとめた表です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 位置 | イタリア半島のつま先・最南端 |
| 州都 | カタンツァーロ |
| 面積 | 約15,222 km² |
| 人口 | 約187万人 |
| 接する海 | ティレニア海・イオニア海 |
| 代表的な特産品 | 唐辛子、ンドゥイヤ、ベルガモット、赤玉ねぎ(トロペア)、オリーブオイル |
カラブリア料理を深く知るための参考として、辻調グループが現地取材で記録した郷土食文化のレポートは非常に詳細です。
カラブリア郷土料理と唐辛子文化の詳細なフィールドレポート(辻調グループ)。
https://www.tsuji.ac.jp/oishii/recipe/letter/totteoki/calabria.html
カラブリア料理を語るうえで避けて通れない食材が、ンドゥイヤ('Nduja)です。真っ赤なペースト状のサラミで、初めて見る人はその外観に戸惑うかもしれません。しかし一度口にすると、複雑な旨みと強烈な辛さが後を引き、「やみつき」になると言われる唯一無二の食材です。
ンドゥイヤの起源は1800年代初頭、ナポレオンの支配下にあった南イタリアに遡ります。ナポレオンの妹婿ミュラがナポリ王となった際、フランス産サラミ「アンドゥイユ(Andouille)」を庶民に配布しました。カラブリアの人々はこれに大量の唐辛子を加えてアレンジし、独自のンドゥイヤを作り上げたのです。
注目すべきはその製法です。使用される肉は豚の胃や腸などの内臓を含む端肉で、1kgの肉に対して唐辛子をなんと250g(肉の4分の1の量)使用します。これだけ大量の唐辛子が持つ強力な抗菌効果により、保存料や防腐剤をまったく使わなくても3〜6ヶ月の長期保存が可能になるのです。冷蔵設備がなかった時代、これは貧しい農村地帯にとって革命的な「食料確保の知恵」でした。
庶民の智慧の結晶です。
完成したンドゥイヤは乾燥した冷暗所でじっくりと熟成され、ペースト状になるほど柔らかく仕上がります。使い方は幅広く、焼いたパン(ブルスケッタ)に塗る食べ方が基本ですが、トマトソースパスタに加える、ピッツァのトッピングにする、豆の煮込み料理(ファジョラータ)に混ぜるなど、料理の旨み調味料として万能に活躍します。
ンドゥイヤの本場として知られるのは、人口わずか1,400人ほどの小さな町「スピーリンガ」です。毎年8月8日には「ンドゥイヤ祭り」が開催されるほどで、町全体が誇りを持つ食材です。
ンドゥイヤの歴史・特徴・使い方の詳細(亀屋Webショップ)。
https://www.kameyaweb.co.jp/aec/user/catalog_shohin_list?ct=3146
カラブリア料理の主役である唐辛子には、辛みの素となる「カプサイシン」が豊富に含まれています。カプサイシンは単なる辛み成分にとどまらず、さまざまな健康効果が研究で確認されている機能性成分です。サイゼリヤのスパイシーなメニューをためらっていた人にとって、これはむしろ積極的に食べる理由になるかもしれません。
カプサイシンの主な健康効果として知られているのは、まず脂肪燃焼・代謝向上です。カプサイシンがTRPV1受容体を刺激することで体温が上昇し、脂肪を燃焼しやすい状態を作り出します。血行促進・冷え性改善の効果もあり、血管を拡張させる作用でからだの末端まで血流が行き届きやすくなります。さらに抗酸化・抗炎症作用、食欲増進効果、コレステロール値の低下など、生活習慣病予防に役立つ側面も報告されています。
これは知ってると得です。
ただし、過剰摂取には注意が必要です。大量のカプサイシンは胃腸の粘膜を傷つけ、胃腸が荒れたり、咳や息切れを引き起こすことがあります。農林水産省の情報によると、少量の唐辛子であれば食欲を促進し健康にプラスに働くものの、食べすぎは逆効果になる可能性があります。カラブリアの人々も、唐辛子を日常的に「調味料として適量使う」ことを基本としており、一度に大量摂取する文化ではありません。
カラブリア唐辛子の辛さを数字で比べると、以下のようになります。
| 唐辛子の種類 | スコヴィル値(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 日本の鷹の爪 | 約50,000 | 辛みがシャープ |
| カラブリア産唐辛子 | 30,000〜40,000 | 辛みの中にフルーティーな甘みと香り |
| 韓国の唐辛子(粉) | 約1,000〜2,000 | まろやかで甘みが強い |
| タバスコ | 約2,500〜5,000 | 酸味と辛みのバランス |
カラブリア産唐辛子のスコヴィル値は30,000〜40,000で、鷹の爪よりやや穏やかでありながら、「ビシッと鋭い辛み→フルーティーな余韻」という独特の2段階の味わいが特徴です。辛さだけでなく、料理の奥行きを作る「香り」の要素が強い点が、カラブリア料理の辛みをより複雑で旨みのあるものにしています。
カラブリア料理は「辛いだけ」ではありません。豊かな地中海の恵みを活かした多様な料理体系を持っています。カラブリアの郷土パスタは、日本ではあまり知られていませんが、一度知ると「また食べたい」と思わせる個性的なものばかりです。
代表的なのが「フィレイヤ(Fileja)」です。カラブリア南西部の都市ヴィボ・ヴァレンツィアで生まれたこの手打ちパスタは、細い金属棒に生地を巻きつけてゆるい螺旋状に成形します。その形状がもちもちした食感と豊かなソースの絡みを生み出します。定番の組み合わせは「レモンと赤唐辛子のメカジキソース」で、近くの海で水揚げされるメカジキを使ったご当地色が強い料理です。かつてお金の代わりにも使われたとされる唐辛子とレモンの酸味が特徴的な夏向けの一皿です。
もう一つ興味深いのが「ストロンカトゥーラ(Stroncatura)」です。19世紀にナポリから伝わったとされる全粒粉入りパスタで、もとは製粉時に地面に落ちた粉を集めて作った「貧者のパスタ」でした。当時は食べることを禁じられていたため、農民たちがこっそり家庭に「密輸」して食べていたという逸話が残っています。
郷土料理はドラマチックです。
カラブリアの保存食文化は、肉・魚・野菜と幅広い分野に及んでいます。
また、チーズ文化も豊かで、ローマ時代から続くポドリカ牛(古代種)の乳100%で作る高級カッチョカバッロチーズは州内でのみ生産される希少品です。「カラブリア料理=唐辛子だけ」というイメージは、実は大きな思い込みです。
カラブリア州の多彩な郷土料理と食材情報(イタリア好き)。
https://italiazuki.com/2017/10/26/カラブリア州ってこんなところ/
カラブリアと聞けば「辛い」「唐辛子」のイメージが先行しますが、この州が世界に誇る隠れた特産品があります。それがベルガモット(Bergamotto)です。アールグレイ紅茶の独特な香りの素となる柑橘類で、世界で流通する高品質ベルガモットオイルの約90%がカラブリア産というのは、ほとんど知られていない事実です。
ベルガモットはレモンに似た外見を持ちますが、甘みと苦み、爽やかさが複雑に混ざり合った、ゆずほどの大きさの柑橘類です。「カラブリアの緑の金」とも呼ばれ、その精油は香水・化粧品業界でも最高峰の素材として取引されてきました。グエランなど有名香水ブランドがカラブリア産ベルガモットをテーマにした香水を発売するほど、その香りの価値は世界的に認められています。
料理の世界でも、ベルガモットはカラブリア南部のシラス(稚魚)料理との組み合わせで使われるなど、爽やかな酸味と香りを料理に加える食材として機能しています。
意外ですね。
さらに、カラブリアには日本ではほとんど知られていない独自の「甘み」もあります。トロペアの赤玉ねぎ(Cipolla Rossa di Tropea)はイタリア全土で有名なブランド野菜で、辛みがほとんどなく甘さが際立つのが特徴です。この赤玉ねぎとンドゥイヤを組み合わせた豆の煮込み「ファジョラータ」は、「辛さ×甘さ」のバランスが絶妙で、カラブリア料理の複雑な味わいを象徴する一皿といえます。
カラブリア料理が「ただ辛い料理」ではなく「辛さ・甘さ・旨み・酸味が絡み合う複合型の味覚体験」であることは、サイゼリヤの南イタリア系メニューを楽しむ際にも意識すると、その料理の奥行きがぐっとよく見えてきます。例えば、ピリ辛のパスタやアランチーニを注文したとき、「これはカラブリアの食文化の流れを汲んでいる」と知っているだけで、一口の満足度が変わります。
カラブリア州のベルガモットに関する詳細(イタリア好き)。
https://italiazuki.com/2018/02/21/カラブリア州の隠れた特産物・ベルガモット/