サイゼリヤのワインが好きな人ほど、ラグレインを飲むと損をする。
「サイゼリヤのワインが好きな人ほどラグレインを飲むと損をする」——これはどういう意味でしょうか? サイゼリヤで飲めるイタリアワインはどれも1本1,000〜2,000円台とコスパ抜群で、それに慣れきっているとラグレインを専門店で3,400円〜約7,000円出して購入したとき、「こんなに払うなら安いワインで十分だった」という後悔が生まれやすいからです。でも、ひとくち飲めばその複雑さと奥行きで考えが変わるはずです。今回は、そのラグレインについて徹底的に深掘りしていきます。
ラグレイン(Lagrein)は、イタリア最北端の州、トレンティーノ=アルト・アディジェ州に根付く黒ブドウの土着品種です。主な栽培地はボルツァーノ(Bolzano)盆地周辺に限定されており、世界全体の栽培面積は約537〜654ヘクタールほどしかありません。東京ドームの面積が約4.7ヘクタールであることを考えると、約115〜140個分の東京ドームを並べた広さしかない、非常に限られた土地で育てられている品種だとイメージしていただけるでしょう。
この品種の名前の由来には諸説あり、ドイツ語で「ラガリーナ谷」を意味する「Lagarino(ラガリーノ)」に由来するという説が有力とされています。さらに遡ると、古代ギリシャの品種「Lagaritanos」を起源に持つという説もあり、紀元前3〜4世紀ごろにギリシャ移民が現在のバジリカータ州に持ち込み、それが時代を経てアルプスの山岳地帯へ広がっていったとも考えられています。文献上では1097年、ボルツァーノ近郊グリエス(Gries)の修道院においてラグレインの栽培が記されたのが最古の記録です。つまり、実に900年以上の歴史を持つ品種なのです。
歴史的に興味深いのは、1370年に神聖ローマ皇帝カルロ4世がフルボディのラグレインを兵士への支給から禁止した、という記録です。強すぎるボディが問題視されたとも言われており、これが皮肉にもラグレインをロゼ醸造(クレッツェル)の方向へ向かわせるきっかけになりました。その後1526年の農民一揆を経て、ラグレインはしだいに一般市民にも広まっていきます。
品種登録が公的に行われたのは1970年のことで、テロルデーゴ(Teroldego)と不明な品種との交配品種とされています。歴史ある品種なのに品種登録が比較的最近という点も、ラグレインの複雑な素性を物語っています。
ラグレインの品種詳細・歴史・ワインの特徴(Vino Hayashi イタリアワイン土着品種辞典)
ラグレインワインを語るときに欠かせないのが、その圧倒的な「色の濃さ」です。グラスに注いだ瞬間、深い紫がかったルビー色から、黒みに近い濃厚な色調が現れます。アントシアニン(色素成分)の含有量が非常に多く、他の赤ワインと並べると一目で違いがわかるほどです。
香りはブラックベリー、カシス、プラムといったダークフルーツ系が主体で、スミレのフローラルな香り、クローブやナツメグなどのスパイスのニュアンスも混じります。樽熟成されたタイプではバニラやビターチョコレートのアロマが加わり、複雑さがさらに増します。
味わいはミディアムからフルボディで、成熟したタンニンによるビロードのような滑らかさが特徴的です。「ビロードのような口当たり」とはどういうことか、というと、渋みがとがっておらず、舌の上でさらりとなめらかに溶けていくような感覚です。これは着古した高級スーツの生地を指でなでるような滑らかさ、とイメージすると伝わりやすいかもしれません。酸味のバランスも良く、後味に軽いほろ苦さが残るのがラグレイン独特の個性です。
つまり「濃くて重いだけ」ではないのがラグレインの魅力です。
醸造スタイルによって大きく2種類に分かれます。ひとつはステンレスタンクで醸造した「ラグレイン・ドゥンケル(Lagrein Dunkel)」で、フレッシュな果実感が前面に出た若々しいスタイル。もうひとつはオーク樽で熟成させたリゼルヴァタイプで、厚みのあるボディと複雑さが加わります。若いラグレインは3〜5年で果実のフレッシュさを楽しめますが、樽熟成の良質なキュヴェなら10年以上の熟成でさらなる複雑味が生まれます。
1985年頃まで「ロゼが主流」だったという事実も意外ですね。
タンニンが強すぎる品種として扱いが難しかったラグレインは、長い間ロゼワイン(クレッツェル/Kretzer)の形で提供されるのが一般的でした。赤ワインスタイルが普及し始めたのは1960年代からのことで、現在のような力強いフルボディの赤ワインが定着したのは比較的最近のことです。
アルト・アディジェ(南チロル)公式サイトによるラグレインの産地・スタイル紹介
ラグレインをせっかく購入したなら、飲み方にも少しこだわると味わいが別物になります。まず飲み頃の温度は16〜18℃が目安です。一般的なフルボディの赤ワインと同じ温度帯で、夏場に常温放置したものはやや熱くなりすぎることがあるので注意が必要です。冷蔵庫から出した直後では冷たすぎるため、出して10〜15分ほど室温に置いてから飲むのがちょうどよいです。
グラスは2種類の使い方があります。若いラグレインや果実感を楽しみたいときはチューリップ型グラス、熟成感や複雑さを楽しみたいときはバルーン型のボルドーグラスがおすすめです。グラスの形が変わるだけで香りの立ち方が大きく変わるため、できれば両方試してみると発見があります。これは使えそうです。
デキャンタについては、若いラグレインに特に効果的です。開けたてはタンニンが突っ張った印象を受けることがありますが、デキャンタ(別の容器に移して空気に触れさせる操作)を15〜30分行うだけでタンニンが落ち着き、香りがぐっと開きます。専用のデキャンタ器具がなくても、コップなどに一度移して少し待つだけでも効果があります。
樽熟成されたリゼルヴァタイプは30〜60分のデキャンタが理想です。
デキャンタ後は温度が上がりやすいため、室温が高い日は飲む速度にも注意が必要です。ワインの温度が1.5℃変わるだけで人間はその味の違いを認識できるという研究もあり、温度管理は思っている以上に重要な要素です。専門家向けのワインセラーがなくても、保冷スリーブをボトルに巻いておくだけで温度の上昇を抑えることができます。ワインショップや雑貨店で1,000円前後から購入できるものが多いため、まず一つ手元に置いておくと便利です。
ラグレインの強みは、料理との相性の幅の広さにあります。濃い果実味とビロードのようなタンニン、スパイシーなアロマがあるため、脂の乗った肉料理や香りの強いソース、きのこ料理と特によく合います。具体的には以下のような組み合わせが相性のよいペアリングとして知られています。
| ラグレインに合う料理 | 相性のポイント |
|---|---|
| ラムのグリル(羊肉) | ワインの果実味が羊の旨みと同調する |
| スパイシーなチキングリル | スパイスの香りが共鳴しあう |
| きのこ・トリュフ風味のリゾット | 香りが補完しあい複雑さが増す |
| 煮込み系の赤身肉 | タンニンが肉の旨みを引き出す |
| スペック(燻製ハム) | 北イタリアの郷土的なペアリング |
| ゴルゴンゾーラなどの青カビチーズ | ビロードのタンニンが塩味と調和する |
サイゼリヤのメニューと合わせるなら、特に「辛味チキン(約300円)」「アロスティチーニ(羊の串焼き)」「エスカルゴのオーブン焼き」との相性が抜群です。辛味チキンはスパイシーな風味がラグレインのスパイス香と絶妙に重なり合います。アロスティチーニは羊肉の独特の旨みがワインの果実味と同調し、相乗効果を生みます。これはまさに、サイゼリヤ好きにラグレインが向いている理由そのものです。
乳製品やトマトソースとも意外に良い相性を示します。
サイゼリヤのミラノ風ドリア(300円)のトマトベースのミートソースと合わせるのも、試してみる価値があります。ドリアのチーズとクリームの濃厚さがラグレインのタンニンをやわらげ、飲みやすくしてくれます。サイゼリヤ好きにとって、自宅でラグレインのボトルを開けながらデリバリーまたはテイクアウトしたサイゼリヤの料理と合わせる、という楽しみ方もあります。
ソムリエ田邉公一氏によるサイゼリヤワインと料理のペアリング検証記事(note)
ラグレインは、一般的なスーパーやコンビニではほぼ見かけません。これは栽培面積の狭さと生産量の少なさが直接の理由です。日本国内で入手するには、イタリアワインを専門に扱うオンラインショップや、輸入ワインを揃えた専門ワインショップが現実的な選択肢になります。
価格帯はボトル1本(750ml)あたりおおよそ以下のような構成です。
| タイプ | 価格目安(税込) | 特徴 |
|---|---|---|
| スタンダードタイプ(ケットマイヤーなど) | 3,400〜4,000円 | 果実感鮮やか、ステンレス熟成 |
| ミドルクラス(ロゼ含む) | 3,000〜5,000円 | バランス重視、飲み口やわらか |
| リゼルヴァ(樽熟成) | 6,900〜12,980円 | 複雑さ・深み重視、長期熟成向き |
サイゼリヤのボトルワインは700〜2,200円ほどで楽しめることを考えると、ラグレインは1.5〜6倍の価格帯になります。ただし、複雑な香り・熟成ポテンシャル・希少性という点では同列に比較できないほどの差があります。「サイゼリヤのワインがコスパ最強」という認識が間違いなのではなく、それぞれが異なる楽しみ方に向いている、と考えるのが正確です。
サイゼリヤで好きな品種はここが基本です。
初めてラグレインを試す場合、スタンダードタイプの「ケットマイヤー ラグレイン(約3,400円)」や「カンティーネ・ディ・オーラ ラグレイン アルト・アディジェ(3,000円台)」が入門として扱いやすいです。楽天市場やアマゾンなどの通販でも「lagrein」「ラグレイン」で検索すると複数の選択肢が見つかるため、まずはオンラインで探すのが手軽な方法です。
もしラグレインがどうしても見つからない、または予算的に難しいという場合、近い味わいの代替品として同じ北イタリア産の「テロルデーゴ」や、スパイシーな果実感を共有する「シラー/シラーズ」を選ぶと、ラグレインの雰囲気を疑似体験できます。テロルデーゴはアルト・アディジェに隣接するトレンティーノ州の品種で、地場の個性を持ちながら比較的入手しやすい点がメリットです。
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