サイゼリヤのグラスワインは赤・白どちらも税込100円ですが、実は上位グレードのボトルワインのほうが1杯あたりのコストパフォーマンスが高くなる計算です。
マルツェミーノ(Marzemino)は、イタリア北部・トレンティーノ州を代表する赤ワイン用土着品種です。主な栽培地はロンバルディア州・トレンティーノ=アルト・アディジェ州を中心に、エミリア=ロマーニャ州やヴェネト州など北イタリアに広く分布しています。16世紀頃からパドヴァ周辺で栽培されてきた記録が残っており、「テロルデゴ」という品種の血筋を引く由緒ある品種でもあります。
トレンティーノ州のなかでも、特に名産地として知られるのが「ヴァッラガリーナ」「ロヴェレート」「イゼラ」周辺の丘陵地帯です。この地域はアルプスの山々に囲まれ、昼夜の寒暖差が大きく、ブドウが適度な酸味と果実感を育てる絶好の環境といえます。ちなみに、この地域はかつて神聖ローマ帝国やオーストリア=ハンガリー帝国の支配下にあったことから、ドイツ・オーストリア文化の影響を受けた料理や風土が今でも色濃く残っています。マルツェミーノのワインに「どこかオーストリアワインのような風味がある」と評されることがあるのは、こうした歴史的背景が理由のひとつです。
格付けについては、「トレンティーノ・マルゼミーノ DOC」と「トレンティーノ・イゼラ・マルゼミーノ・スーペリオーレ DOC」が代表的な呼称です。スーペリオーレは収穫量を抑え、より凝縮された味わいを目指した上位規格です。単一品種で造られることが多いのがトレンティーノ産で、他の地域ではブレンドに使われるケースも見られます。
マルツェミーノの品種特性・格付け詳細(日欧商事ブドウ品種辞典)
マルツェミーノの味わいは一言でいうと「ミディアムボディで爽快な酸が特徴の赤ワイン」です。色調は深みのある赤紫で、見た目はかなり濃い印象を与えます。ところが実際に口に含むと、想像よりずっと軽やかに感じる方が多いはずです。これが「マルツェミーノの意外性」ともいえる部分です。
香りはラズベリー・チェリー・プラムなどの赤い果実のアロマが主体で、スミレのような華やかなフローラルなニュアンスも加わります。さらに乾燥したセージやハーブ、アーモンドの香りが奥に控えており、芳醇で複雑な印象です。後味にはわずかにビターなニュアンスが感じられ、これがイタリア北部ワインらしいキレのよさを生み出しています。
タンニン(渋み)は比較的穏やかで、酸味がしっかりしているため食中酒として非常に使いやすいのが特長です。ボルドーのようなズッシリした重さはなく、むしろブルゴーニュのピノ・ノワールに近い軽快さを持ちながら、フルーティーさでいえばピノ・ノワールより少し親しみやすい印象です。ピノ・ノワールが好きな方には特に刺さりやすい味わいといえるでしょう。
夏場は少し冷やして14℃前後で飲むとフレッシュ感が増して飲みやすくなります。冬場はセラー温度(15〜16℃)のまま飲むと、スミレやハーブの香りが最大限に開いてきます。温度次第で別のワインのように表情が変わるのも、このブドウの魅力のひとつです。
マルツェミーノがワイン愛好家のあいだで「名前だけは知っている」というポジションになった最大の理由は、モーツァルトの傑作歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(1787年初演)に登場するからです。第2幕フィナーレの晩餐シーンで、主人公ドン・ジョヴァンニは高らかにこう叫びます。
「Versa il vino! Eccellente Marzemino!(ワインを注げ!最高のマルゼミーノを!)」
モーツァルト(1756〜1791年)はトレンティーノ滞在中にこのワインを気に入ったとされており、その愛着がオペラの台詞にも反映されたと伝わっています。マルツェミーノの歴史はさらに古く、700年以上前からパッシート(干しブドウから造る甘口ワイン)として醸造されていた記録があります。50年前まではほとんどが甘口スタイルで造られていたというのは、現代のドライな辛口スタイルを知るわれわれには意外な事実です。
歴史的にはオーストリアを中心にヨーロッパ各地でブームになった時代もあり、イタリアだけでなく国境を越えて愛された品種でもあります。現在、最も知られる産地の生産者のひとつ「デ ステファニ」(ヴェネト州)は、伝統的な甘口パッシートの辛口バージョン「ステフェン1624 マルツェミーノ」を造る唯一の生産者として高い評価を受けています。このワインは収穫後3ヶ月の陰干し、3年間の樽熟成、さらに2年のボトル熟成という、5年以上かけて完成する大作です。
モーツァルトとマルツェミーノの関係を詳しく解説(ちょい読みワイン講座)
サイゼリヤの料理ラインナップとマルツェミーノの相性を真剣に考えると、実は「和牛ステーキ」より「サイゼリヤ定番のお手頃肉料理」のほうが相性がいいケースが多いです。これはマルツェミーノのミディアムボディという性質上、脂の多い濃厚な肉よりも、軽めの肉料理やハーブ系の風味と組み合わせたほうがバランスが取れるからです。
以下に、サイゼリヤの人気メニューとの相性をまとめます。
| サイゼリヤメニュー | 相性 | ポイント |
|---|---|---|
| 辛味チキン(300円) | ⭐⭐⭐⭐⭐ | スパイシーな風味がワインのハーブ感と見事に同調。ベストマッチ |
| ラムチョップ | ⭐⭐⭐⭐⭐ | ラム肉の独特な風味にハーブ系アロマが寄り添う黄金の組み合わせ |
| ミートソースのボロニア風タリアテッレ | ⭐⭐⭐⭐ | 肉の旨みと果実感が共鳴。ボロネーゼソースとの産地の一致も〇 |
| エスカルゴのオーブン焼き | ⭐⭐⭐⭐ | ガーリックバターの香りにスミレのアロマが映える上品な組み合わせ |
| キノコのピザ | ⭐⭐⭐⭐ | キノコの土っぽさとアーモンドの余韻が絶妙に絡み合う |
| ミラノ風ドリア(300円) | ⭐⭐⭐ | クリーム系ソースとは少し方向性が違うが、ミートソース部分とは合う |
特に「辛味チキン+マルツェミーノ」の組み合わせは、コスト面でも秀逸です。辛味チキンが300円、ボトルワイン(1本1,100円)を2人でシェアすれば1人550円ですから、合計850円でソムリエ推奨ペアリングが楽しめる計算です。これはなかなかの破格です。
ペアリングの基本は「同じ産地のものを合わせる」です。マルツェミーノはイタリア北部ワインですから、イタリアンハーブをたっぷり使った料理や、トマトベースのソース料理との親和性が高くなります。鶏肉・豚肉・白身肉全般とも相性がよく、「何でも合う食中酒」として使い勝手の高い一本です。
サイゼリヤでマルツェミーノに興味を持ったら、ぜひ自宅でもじっくり飲み比べてみてほしいです。通販で入手しやすい代表的な銘柄をいくつか紹介します。
まず入門として試しやすいのが「ソランデル マルゼミーノ トレンティーノ DOC」(サン・ロッコ社)です。アルコール度数13.5%、マルゼミーノ100%使用。ルビーレッドの色調と甘美なスミレの香りが特徴で、楽天市場などで入手できます。
もう一本注目したいのが「ローズィ ポイエーマ」(ローズィ・エウジェニオ社)です。「ポイエーマ」とは「創造」を意味するギリシャ語で、マルツェミーノのポテンシャルを最大限に引き出すことに徹底的にこだわって造られた一本です。完熟ブドウの香りと奥深いスミレのニュアンスが印象的で、マルツェミーノのファンのあいだで長く語り継がれています。
保存のポイントは3つだけです。①開封前は横向きに寝かせ、温度12〜15℃・湿度70%前後の暗所で保管する。②開封後は立てて冷蔵庫(野菜室が理想)に保存し、1週間以内に飲み切る。③飲む30分前に冷蔵庫から出して14〜16℃に戻す。これが原則です。
冷蔵庫で急冷しすぎると、マルツェミーノ特有のスミレやハーブの香りが閉じてしまいます。「グラスに注いで5分待つ」だけでも香りの広がりが全然違うので、飲む直前に温度を意識することをおすすめします。ワインの保存グッズとして「バキュバン(真空ストッパー)」を1本持っておくと、開封後の酸化を大幅に遅らせることができます。1,000〜2,000円程度で購入できる手軽なアイテムです。