サイゼリヤのティラミスは、実はピエモンテ州のメーカーから直輸入している。
バーニャカウダは、サイゼリヤ好きなら一度は耳にしたことがある、ピエモンテを代表する郷土料理です。日本では「野菜につけるおしゃれなソース」というイメージが定着していますが、本場ピエモンテの原点は少し違います。
本物のバーニャカウダソースの原料は、アンチョビ・オリーブオイル・にんにくの3種類だけです。シンプルな構成ながら、塩漬けアンチョビのうまみとにんにくのパンチが合わさって、深くコクのある味わいになります。一方、日本のスーパーで販売されているバーニャカウダソースの多くは、生クリームやアミノ酸などの添加物、さらにアンチョビソース(アンチョビそのものではない)が原材料に入っています。本場のピエモンテ人に言わせると「どれも本物ではない」というほどの違いがあります。
つまり、日本で食べているバーニャカウダの大半は"アレンジ版"ということです。
バーニャカウダはピエモンテ語で「バーニャ=ソース、カウダ=熱い」を意味します。その名の通り、熱々のソースに野菜を浸して食べるスタイルが特徴です。起源は中世の農民が寒い冬を乗り越えるための料理で、海のない山岳地帯であるピエモンテに「塩の道」を通じてアンチョビが運ばれてきたことが始まりとされています。
本場では、フジョー(tupinとも呼ばれる特製土器のポット)にキャンドルをセットして、食卓で温め続けながら食べます。野菜はパプリカ・カルド・ゴッボ(ゴボウとセロリの中間のような野菜)・ジャガイモなど、秋冬の旬野菜が中心です。生野菜と加熱野菜を交ぜて使うのが伝統スタイルです。
バーニャカウダをより深く理解したいなら、以下のページが参考になります。ピエモンテ人の視点から本物の原料・レシピ・野菜の種類までを徹底解説しています。
ピエモンテを代表するパスタ「タヤリン(Tajarin)」は、全卵ではなく卵黄のみを惜しみなく練り込んで作る手打ちパスタです。深い黄色と繊細な薄さが特徴で、日本でいえばちょうどこんにゃく麺くらいの細さに仕上がります。
卵黄をたっぷり使うことで、パスタ自体に濃厚なコクと香りが生まれます。これが基本です。その豊かな味わいを活かすため、ソースはあえてシンプルなものが合わせられます。定番は「バター&パルミジャーノ・レッジャーノ」か、肉のラグーです。秋には白トリュフを削りかけるのが最上とされ、これは現地の贅沢な食べ方として有名です。
白トリュフの価格は、1グラムあたり1,000〜2,000円前後が相場です。アルバ産の白トリュフは100グラムで10万円以上になることもあります。タヤリンに少量でも白トリュフをのせれば、1皿で数千円を超えるわけです。これは使えそうです。
「アニョロッティ・デル・プリン(Agnolotti del Plin)」も忘れてはいけません。指でつまんで形を作る(プリン=pinch)ことから名がついた、ピエモンテ独自の小型詰め物パスタです。仔牛肉・豚肉などの肉フィリングが詰まっており、セージバターで仕上げるのがオーソドックスなスタイルです。長さが2〜3センチ程度とミニサイズなので、一口でほうばれるのも特徴のひとつです。
ピエモンテのパスタ文化に共通するのは「卵を大切にする」という姿勢です。オリーブオイルが主流の南イタリアとは違い、ピエモンテはバターと卵でパスタを豊かにする北イタリアの食文化を体現しています。
「ブラザート(Brasato)」は、ピエモンテが誇る赤ワイン煮込み料理です。牛肉をバローロワインと香味野菜に一晩漬け込み、そのまま数時間かけてじっくり煮込みます。仕上がった肉はほろほろと崩れるほど柔らかく、ワインの風味を吸ったソースがのせられます。
重要なのが使うワインです。バローロは「ワインの王様」と称されるイタリアを代表する赤ワインで、ネッビオーロ種のブドウからのみ造られます。果実の風味と強いタンニンが肉に絡むことで、ただの煮込みとはひと味違う奥深いコクが生まれます。ブラザートはバローロなしには成立しない料理、といっても過言ではありません。
ピエモンテ料理の肉料理は、バリエーションが豊富です。代表的なものをあげると次のとおりです。
肉料理が中心なのは、ピエモンテが海に面していないためです。これが基本です。魚は川魚(マス・コイなど)が食べられる程度で、新鮮な海の魚介類はほとんど使われません。その分、牛や仔牛、ジビエを上手に活用してきた歴史があります。
ビテッロ・トンナートは仔牛と魚の組み合わせですが、これはリグーリア州(海に面した隣州)からアンチョビやツナが「塩の道」を通じて運ばれてきた歴史と深く関わっています。
ピエモンテの食文化を語るうえで欠かせないのが白トリュフとチーズです。この2つは、世界中の食通が注目する特産物として知られています。
白トリュフの産地として特に有名なのが、ランゲ地方のアルバ(Alba)です。毎年秋になるとアルバでは「白トリュフ市(Mercato Mondiale del Tartufo Bianco d'Alba)」が開催され、世界中から食通が訪れます。白トリュフは人工栽培ができず、特別に訓練された犬を使って地中から探し当てる方法が今も主流です。その希少性から価格は年々上がっており、2023年には1グラムあたり約14ユーロ(日本円で約2,000円前後)という相場になっています。過去には850グラムの白トリュフが1,100万円で落札されたこともあります。意外ですね。
白トリュフの最大の特徴は「独特の芳香」です。加熱すると香りが飛んでしまうため、料理に仕上げてから削りかけるか、卵料理などでやさしく使うのが基本です。アルバ周辺のレストランでは、秋シーズンにタヤリンやリゾットへの白トリュフ削りかけが定番となっています。
チーズも充実しています。ピエモンテ州が誇るDOP(原産地名称保護)チーズには以下のものがあります。
| チーズ名 | タイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| ゴルゴンゾーラ | 青カビ | 日本でもおなじみの強い風味と濃厚さが特徴 |
| トーマ・ピエモンテーゼ | セミハード | 牛乳製のマイルドなチーズ。山岳地の家庭料理に使われる |
| カステルマーニョ | セミハード | 羊乳や牛乳を混ぜて熟成させたコクのあるチーズ |
| ムラッツァーノ | フレッシュ | 羊乳100%の柔らかいチーズ。食後にジャムと合わせるのが現地流 |
ピエモンテ州はイタリア最大規模の米の産地でもあります。国内の米生産量の50%以上をまかなっているという事実は、あまり知られていません。この豊富な米を使ったリゾットも、ピエモンテ料理の重要な柱のひとつです。単純なリゾットだけでなく、味付きご飯をパプリカに詰めてオーブンで焼き上げる「ペペローニ・リピエーニ」という郷土料理もあります。
サイゼリヤ好きであれば、「ピエモンテ料理」という言葉は意外に身近です。実は、日頃サイゼリヤで食べているいくつかのメニューが、ピエモンテと深い関係を持っています。
まず「ティラミス クラシコ」です。サイゼリヤのティラミスは2005年からイタリア・ピエモンテ州のデザートメーカーと共同開発したもので、現在も直輸入しています。「イタリアのどこか」ではなく、明確にピエモンテ産のデザートです。フワッとした口当たりとエスプレッソの風味が特徴で、現地のレシピを忠実に再現したサイゼリヤ専用処方となっています。
次に「ボネ(Bonet)」です。2025年2月以降、一部店舗限定でひそかに提供が始まったピエモンテ州トリノ発祥のチョコレートプリン。ピエモンテ語で「帽子」や「締めくくり」を意味するといわれる伝統菓子で、ダークなビジュアルとほろ苦いカカオの風味が特徴です。税込み350円というサイゼリヤらしい価格で食べられるのは驚異的なコスパです。
このボネ、本来はアマレッティ(アーモンド風味の焼き菓子)を砕いて加えるのが正統なレシピです。ラム酒の香りも加わり、食後のデザートとしてバーニャカウダのあとに食べる現地の習慣もあります。
厳密にいえば、サイゼリヤとピエモンテの関係は商品だけではありません。サイゼリヤが掲げる「本場イタリアの味を手頃な価格で」というコンセプトは、スローフード運動の発祥地でもあるピエモンテ州ブラの精神とも重なっています。スローフード運動とは、地域の食文化・食材・生産者を大切にしながら食を楽しもうという考え方であり、ピエモンテが1986年に発祥地となって世界に広まった動きです。
ピエモンテ料理をもっと詳しく知りたいなら、以下のページも参考になります。現地シェフが教えるピエモンテ料理の本質と各郷土料理の背景が丁寧にまとめられています。
ピエモンテ家庭料理レッスン(シチリア発!La Vacanza Italiana)
ピエモンテのデザートはほかにも個性的なものがそろっています。
これらのデザートに共通するのは、ピエモンテ産のヘーゼルナッツやカカオを活かした「濃厚さ」です。同じ原則が料理全体にも通じています。バターと卵と乳製品を惜しみなく使い、素材の味を引き出す。それがピエモンテ料理の根幹にある考え方です。
サイゼリヤで親しんでいるメニューの背景にピエモンテ州の食文化があると知ると、日常の一皿が少しだけ特別なものに感じられるのではないでしょうか。