プロシュートコットを「ただの加熱ハム」と思っていると、1,000円以上の高級ハムを買い逃し続けます。
「プロシュートコット(prosciutto cotto)」は、イタリア語で「加熱したハム」を意味する言葉です。「プロシュート」はイタリア語でハム全般を指し、「コット(cotto)」は「加熱した・煮た」という意味の形容詞です。つまりプロシュートコットとは、「加熱処理されたプロシュート」ということになります。
日本では「プロシュート」といえばほぼ自動的に「生ハム」を指すと思われがちですが、これは厳密には正確ではありません。実際にはイタリアでは、豚もも肉から作るハムをすべて「プロシュート」と呼び、そのうち加熱していないものを「プロシュート・クルード(crudo=生の)」、加熱したものを「プロシュート・コット(cotto=加熱した)」と区別しています。
つまり、イタリア料理の文脈では「生ハム=プロシュート」ではないということです。意外ですね。
この区別を知らずにいると、レストランのメニューで「プロシュート」と書いてあっても、それが生ハムなのか加熱ハムなのかを読み間違えることがあります。特にイタリア料理店やサイゼリヤのような本格派ファミレスでは、この違いが料理の味わいや合わせる飲みものにも大きく影響してきます。
コトバンクでも「プロシュット‐コット」の項目に「塩漬けにした豚肉を、蒸したり煮たりして作るハム」と明確に定義されています。これが基本です。
コトバンク:プロシュットコットの意味・使い方(辞書的定義の確認に)
サイゼリヤ好きなら一度は目にしたことがある「プロシュート(生ハム)」。でも、プロシュートコットはその"加熱版"というだけでなく、製法も味の方向性も大きく異なります。2つの違いを整理しましょう。
まず製法の面から見ると、プロシュート・クルード(生ハム)は豚もも肉を皮つきのまま塩漬けにし、燻製を一切せずに1〜2年かけてゆっくり乾燥・熟成させます。長い時間をかけて水分を抜くことで、凝縮した旨みと独特の風味が生まれます。一方のプロシュートコットは、豚もも肉を骨を取り除いた状態で香辛料とともに塩漬けし、その後スチームや煮ることで加熱仕上げします。熟成より「しっとりさ」を追求した製法です。
塩分量にも顕著な差があります。クルード(生ハム)は長期熟成のために塩分を高めに設定しており、100gあたりの食塩相当量がおよそ2〜3gとなっています。これはコンビニのおにぎり(約1g前後)の2〜3倍にあたります。対してプロシュートコットは加熱処理があるぶん保存性も高まるため、塩分が控えめでやわらかくまろやかな口当たりになります。
塩分が気になる方にはコットが選びやすいということですね。
食感と風味の違いも明確です。クルードは薄くスライスしたときにとろけるような繊細さと濃厚な旨みがあります。コットはしっとりジューシーで「上品なボンレスハム」という表現がピッタリです。料理への使いやすさはコットのほうが高く、サンドイッチやピアディーナ(イタリア版薄焼きパン)などさまざまな料理に馴染みやすい特徴があります。
「どうせボンレスハムと同じでしょ?」と思っている人は少なくないはずです。しかし、この思い込みが食の選択肢を大きく狭めているかもしれません。
日本の一般的なボンレスハムの多くは、製造過程でリン酸塩・グルタミン酸ナトリウム(いわゆる化学調味料)・発色剤(亜硝酸Na)などを使用しています。これらは見た目の色をきれいに保ったり、弾力ある食感を出したり、旨みを補強したりする役割がありますが、一方でナトリウムの摂りすぎや風味の人工感につながることもあります。
本格的なプロシュートコットはそれが違います。イタリア産の高品質なものはリン酸塩を使用せず、グルタミン酸ナトリウム(MSG)不使用(NON-MSG)を明示しているものも多く存在します。豚もも肉に海塩と天然スパイスだけで調味し、スチームで仕上げるため、豚本来の旨みが素直に感じられます。
それが「上品な旨み」の正体です。
また、日本のボンレスハムは形を均一にするため結着剤を加えることが一般的ですが、高品質なプロシュートコットは丸ごとの豚もも肉を使い、骨を抜いたそのままの形で仕上げます。断面に脂のサシが自然に入っており、噛むほどに肉の甘みが広がる点が最大の魅力です。
価格帯は日本のボンレスハムより高くなりますが、100g当たりの単価で比較すると、スーパーに並ぶ輸入食材コーナーやオンラインショップで500〜800円程度で入手可能なものもあります。まずは小さなパックで試してみることをおすすめします。
アサヒグラント:FERプロシュートコット商品ページ(リン酸塩不使用の実例確認に)
サイゼリヤファンにとって「プロシュートコット」という言葉は、ある種の特別な響きを持っています。それは2021年秋に登場した「幻のメニュー」と深く結びついているからです。
2021年10月18日、サイゼリヤは東京都と千葉県の一部店舗限定で「隠れた銘品イタリアンハム」フェアを開催しました。そこで提供されたのが「プロシュート・コットのピアディーナ(500円)」です。半分にカットしたピザ生地を薄く焼いてピアディーナ風に仕立て、レタスやニンジンの野菜とともにプロシュートコットをのせた、イタリアンサンド風のメニューでした。
ピアディーナとは、イタリアのエミリア=ロマーニャ州、ロマーニャ地方の薄焼きパンのことで、ハムや野菜を挟んで食べるのが現地の定番です。
このフェアには裏の事情がありました。サイゼリヤが長年取引していたイタリアの老舗サラミメーカー「Pavoncelli(パヴォンチェッリ)社(1899年創業)」が、新型コロナウイルスの影響で経営に打撃を受けていました。そのサポートを目的に、サイゼリヤが個性的なハムを追加発注し、メニューとして展開した支援フェアだったのです。
これはサイゼリヤらしいエピソードですね。
その結果はどうだったか。「プロシュート・コットのピアディーナ」はわずか3日後の2021年10月21日に「想定の4倍近い売れ行き」という理由で在庫が尽き、販売終了の案内が出されました。サイゼリヤ公式のニュースリリースでもこの事実が確認できます。その後、同メニューは現在も通常グランドメニューには復活しておらず、当時食べた人のみが知る「幻のピアディーナ」として語り継がれています。
サイゼリヤはちゃんとおいしい:プロシュート・コットのピアディーナのアーカイブページ(当時のメニュー詳細と背景を確認できる)
プロシュートコットの魅力を最大限に引き出すには、食べ方のコツを知っておくと差がつきます。日本のボンレスハムのつもりで使うのはもったいないです。
まず基本の食べ方として、薄くスライスしてそのまま食べる「プレーン食べ」が一番です。粒マスタードやオリーブオイルを少しつけるだけで、ハム本来の上品な甘みと塩気のバランスが際立ちます。はちみつを少量たらすのもイタリアの定番スタイルで、豚肉の旨みと甘みの相性は抜群です。
パンとの組み合わせはサイゼリヤ風に楽しむ近道です。サイゼリヤのピアディーナが500円で「想定の4倍」売れたのは、薄焼きパン×プロシュートコット×野菜という組み合わせが見事にマッチしていたからです。フォカッチャやバゲットにはさんで食べると、カフェ風のイタリアンサンドが自宅でも再現できます。
加熱してもおいしいのがポイントです。プロシュートコットはすでに加熱済みのため、そのまま食べられますが、軽くフライパンで焼き目をつけることで香ばしさが加わります。ピザのトッピング、パスタの具材、リゾットに混ぜ込むなど、加熱調理の幅がクルード(生ハム)より広いのも大きな利点です。
また、サラダのトッピングとして使うのも人気です。イチジクやメロンなどの甘い果物と合わせる食べ方はクルードの定番ですが、コットの場合はトマトやルーコラ(ロケット)と合わせると、よりすっきりとした味わいになります。サイゼリヤのブロッコリーのサラダや小エビのサラダと一緒にテーブルに並べるのも、本格イタリア風の食卓を演出する手軽な方法です。
保存は開封後は冷蔵で3〜5日以内を目安にし、1度に使い切れない場合は小分けにして冷凍保存(解凍後はなるべく早めに加熱使用)するのが適切です。