リッチャレッリはイタリア語でクッキーのくせに、実は小麦粉がゼロです。
リッチャレッリ(Ricciarelli)は、イタリア・トスカーナ地方のシエナで14〜15世紀ごろから食べられてきた伝統的なアーモンド菓子です。その誕生には複数の説があり、最もよく知られるのは「十字軍に参加した貴族リッチャルデット・デッラ・ゲラルデスカが東方で口にした菓子を再現させた」というロマンチックな伝説です。
ただし、歴史的な記録を丁寧に追うと少し違う姿も見えてきます。興味深いことです。「リッチャレッリ」という名称が文献に登場するのは1814年のリボルノの出版物が最初とされており、それ以前はマジパンに近い菓子として「マルツァパネッティ」や「モルツェレッティ」と呼ばれていました。これらの名前は「ひと口・小片」を意味するラテン語の「モルセッロ」に由来するという説が有力です。
名前「リッチャレッリ」の語源もユニークです。「皺を寄せる・縮らせる」を意味するイタリア語「アッリッチャーレ」から来ているという説と、トルコ文化の皺のある先の尖った靴に形が似ていることからついたという説があります。どちらにしても、東方文化の影響を色濃く受けた菓子であることは確かです。
なお、最初の体系的なレシピは1891年に美食家ペッレグリーノ・アルトゥージが著書『料理の科学と美味しく食べる芸術』のレシピ番号629番として記載しています。当時のレシピも現在と同じく「上白砂糖・甘くて苦いアーモンド・卵白・オレンジピール」を基本材料としており、100年以上前からほぼ変わらない製法が受け継がれていることがわかります。
つまり700年以上の歴史を持つお菓子です。
SAPORITA「イタリア菓子伝07 リッチャレッリ」:リッチャレッリの歴史・名称の語源・詳細なレシピについて解説された専門記事
リッチャレッリがほかのクッキーと大きく違う点は、小麦粉を一切使わないという製法にあります。基本材料はアーモンド(全体の35〜50%)、グラニュー糖(35〜47%)、卵白(6〜12%)、そして粉砂糖のみです。シンプルですね。
この構成は単なる「材料の少なさ」を意味するだけでなく、グルテンフリーであることを自然に実現しています。小麦粉アレルギーやグルテン不耐症の方でも食べやすいお菓子として、近年はヘルスコンシャスな層からも注目を集めています。
さらに注目すべきは、2010年にイタリア菓子として初めてEUのIGP(地理的表示保護=Indicazione Geografica Protetta)に認定されたという事実です。IGPとは、特定地域の農産物や加工品を地域のブランドとして保護するEUの制度で、日本で言えば「夕張メロン」や「神戸ビーフ」のような産地ブランド保護に近いものです。
この認定を名乗るには細かい規定をすべてクリアする必要があります。例えば製造・包装は必ずシエナ県内で行わなければなりません。形は楕円形のひし形で、長径50〜105mm・短径30〜65mm・厚さ13〜22mm・重さ10〜30g以内という具体的な数値が規定されています。長径の最大値105mmはハガキの横幅(148mm)より少し小さいサイズ感です。また着色料・保存料の使用は認められておらず、アーモンド・砂糖・卵白以外の添加物も厳しく制限されています。
「正規のリッチャレッリ・ディ・シエナIGP」を名乗る製品だけが、EU公式のPGIロゴとシエナ市の白黒の盾をあしらった専用マークをパッケージに表示できます。そのロゴが条件です。
一方で、小規模製造者やシエナ以外の地域(ピサ県のポマランチェ、グロッセート県のマッサ・マリッティマなど)でも独自のリッチャレッリが伝統菓子として作られており、IGPロゴはなくても美味しいリッチャレッリを楽しめる選択肢は複数あります。
Great Italian Food Trade「リッチャレッリ ディ シエナ PGI:歴史、アーモンド、甘味」:EU認定の規定要件・製造基準・原産地証明の仕組みを詳解した専門サイト
リッチャレッリを初めて食べた人が必ずと言っていいほど驚くのが、その独特な食感です。表面は粉砂糖に覆われていてわずかにひび割れており、見た目はかなり甘そうな印象を与えます。ところが口に入れると、外側はサクッと崩れ、中はしっとりとやわらかく、なめらかです。
アーモンドの芳醇な香りに、オレンジピールのほのかな柑橘感が重なり、甘さは深いものの後味は案外すっきりしています。日本人が「杏仁豆腐の香りに似ている」と表現することが多く、初めて食べても懐かしさを感じる人が少なくありません。これは使えそうです。
本場シエナでの伝統的な食べ方は、トスカーナの甘口デザートワイン「ヴィン・サント(Vin Santo)」に浸しながら食べるスタイルです。ヴィン・サントは干しぶどうから造られる甘口の酒精強化ワインで、蜂蜜やドライフルーツのような濃厚な香りがあります。リッチャレッリのアーモンドの香ばしさとヴィン・サントの甘みが溶け合うこの組み合わせは、シエナの食後のひとときを彩る定番のスタイルとして何世紀も受け継がれています。
ヴィン・サントがない場合でも、エスプレッソやカプチーノのようなコーヒーとの相性は非常に良好です。紅茶やスパイスティーとも合います。甘さのあるお菓子なので飲み物はブラックコーヒーのほうが引き立て合いますね。
現地シエナのカフェやバールでは、1個から購入できる量り売りもあります。老舗のナンニーニ(Nannini)は1910年創業の有名店で、観光客と地元民の両方に愛されています。著名なイタリアの女性ロックシンガー、ジャンナ・ナンニーニの実家としても知られており、本格的なシエナ菓子を一口ずつ試しながら選べる貴重なスポットです。
アーモイタリア「伝統菓子のパンフォルテとリッチャレッリ」:ナンニーニの店舗情報・営業時間・シエナの伝統菓子の食べ方と購入方法の詳細
サイゼリヤを愛する人は、イタリアのリアルな食文化に自然と親しんでいます。ティラミスやイタリアンジェラートをはじめ、サイゼリヤのデザートの多くはイタリア直輸入品です。そういう意味では、知らず知らずのうちに「本場の味覚」のベースができています。
リッチャレッリはサイゼリヤのメニューには現在登場していませんが、トスカーナ料理圏のお菓子という点でサイゼリヤとのつながりは深いです。サイゼリヤ自体がトスカーナの食文化をルーツにしており、使用するオリーブオイルの原料はイタリア産が多く、パスタやチーズもイタリア各地方の食材をベースにしています。
サイゼリヤ好きがリッチャレッリを食べると「ああ、これがサイゼリヤのあの雰囲気の源泉だ」という感覚を持つことがあります。意外ですね。どちらも「シンプルな素材を最高に生かす」イタリア料理の哲学が根底にあるからです。
リッチャレッリを通じてトスカーナ、さらにはシエナという都市への興味が広がると、次のイタリア旅行の目的地や現地で買うお土産の選び方も変わってきます。サイゼリヤをきっかけにイタリアをもっと深く好きになれる、その橋渡しになるお菓子のひとつがリッチャレッリです。
また、サイゼリヤ期間限定で登場した「ボネ」や「アマレッティー」などのイタリア伝統デザートと同様に、リッチャレッリもアーモンドを主役にした素朴でありながら奥深いスイーツです。サイゼリヤのデザートで「アーモンド系の風味が好き」と感じた人ほど、リッチャレッリは確実にハマるお菓子と言えます。
リッチャレッリは日本国内では一般のスーパーやコンビニでの流通がほとんどなく、入手できる場所は限られています。知っておくと得です。主な入手ルートは次の3つです。
まず輸入食品専門店やイタリア料理専門店で販売されていることがあります。イータリー(Eataly)のような本格的なイタリア食材店では取り扱いがある場合があります。シエナ産の正規IGP認定品を手に入れたいなら、こうした専門店をチェックするのが確実です。
次に国内の菓子職人・工房による手作りのリッチャレッリがあります。千葉県の新松戸にある「Binasce(ビナーシェ)」は、シチリア産アーモンド(パルマギルジェンティ種)を使い注文ごとに粉砕して作る本格的なリッチャレッリを販売しており、オンライン通販も対応しています。1個あたり480円(税込)程度です。賞味期限は商品到着から約3週間のため、贈り物にも向いています。
そして自作するという方法もあります。材料はアーモンドプードル・砂糖・卵白・柑橘の皮というシンプルな構成のため、製菓初心者でも比較的作りやすいお菓子です。日本ではしっとり感よりもカリッとした食感に仕上げた方が日持ちしやすいという現地在住日本人の声もあります。
| 入手方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 輸入食品専門店 | 本場のIGP認定品が手に入る可能性あり | 取扱店舗が限られる |
| 国内工房のオンライン通販(例:Binasce) | 職人手作り・新鮮・ギフト対応 | 価格がやや高め(480円/個〜) |
| 自作 | コスト安・アレンジ自由・作る楽しみ | 食感の再現に慣れが必要 |
| イタリア現地(シエナ) | 一番フレッシュで本物の味 | 現地に行く必要あり |
選び方のポイントとして、購入前に原材料表示を確認することをおすすめします。本物のリッチャレッリは小麦粉・でんぷん・着色料・化学保存料が含まれていないはずです。アーモンド(アーモンドプードル)が第一原材料として表示されているものを選ぶと、より本格的な風味に近いものを選べます。アーモンドが条件です。
Binasce「リッチャレッリ(プレーン)」商品ページ:シチリア産アーモンド使用の国内手作りリッチャレッリの詳細・価格・購入方法を確認できる