サイゼリヤの白ワインは、実はバトンで「死んだ酵母」をかき混ぜた液体です。
バトナージュ(Bâtonnage)は、フランス語の「棒(バトン=Bâton)」という単語が語源になっています。その名の通り、棒を使って樽やタンクの中のワインをかき混ぜる作業を指します。正式には「白ワインのアルコール発酵が終わった後、底に沈んだ澱(おり)を棒でかき混ぜる醸造工程」と定義されます。
澱とは何でしょうか? 発酵を終えた酵母の死骸、ブドウ果肉の細胞膜、タンパク質などの固形物が混ざりあったものです。古代ローマ時代から続く技法で、この澱をそのまま放置せずにかき混ぜることで、ワインに複雑な旨みと口当たりの良さを与えることができます。
| 用語 | 意味 | 対象ワイン |
|---|---|---|
| バトナージュ | 棒で澱をかき混ぜる作業 | 主に白ワイン・ロゼ |
| シュール・リー | 澱の上で静置する製法 | 白ワイン・スパークリング |
| ルモンタージュ | 液体をポンプで循環させる | 赤ワイン |
| ピジャージュ | 果帽を上から押し込む | 赤ワイン |
注目してほしいのは、バトナージュは「主に白ワインで行われる」という点です。これが基本です。 赤ワイン醸造でよく行われるルモンタージュやピジャージュは、果皮や果肉が発酵タンクの上部に浮き上がってできる「果帽」を攪拌するための技術です。白ワインは圧搾して果汁だけを発酵させるため果帽ができず、代わりに発酵後の酵母の澱をかき混ぜるバトナージュが重要な意味を持ちます。
サイゼリヤでいつも飲んでいる白ワインのあのまろやかさが、実はこの「澱かき混ぜ」から来ているかもしれないと思うと、なんだか不思議ですね。
バトナージュによって白ワインにどんな変化が起きるのか、具体的に見ていきましょう。発酵を終えた酵母は「自己分解」という現象を起こします。死んだ酵母が自分自身を分解し、その過程でアミノ酸(旨み成分)や多糖類(とろみ成分)が周囲のワインに溶け出していきます。バトナージュはこのプロセスを積極的に促進するための作業です。つまり旨み増強が目的です。
具体的にどんな変化が生まれるのでしょうか?
ブルゴーニュ地方では、白ワインの醸造工程でほとんどの生産者がバトナージュを取り入れています。一般的な頻度は、アルコール発酵終了直後の数週間は週2回程度、その後は週1回程度まで落としていくというスタイルが多いです。一方でナパバレーのStag's Leap Wine Cellarsのように、3〜4週間に1回程度の頻度で行うワイナリーもあり、頻度は造り手の哲学やワインのスタイルによって大きく変わります。
ただし、やり過ぎには注意が必要です。 バトナージュを過剰に行うと、ワインが酸化しやすくなり、フレッシュな果実の風味が損なわれるリスクがあります。かき混ぜすぎると酸化するというのは、知らないと損する知識です。特に近年は気候変動の影響でブドウの糖度が上がりすぎる傾向があり、バトナージュの頻度を減らしてワインのフレッシュさやエネルギッシュさを保とうとする生産者も世界的に増えています。
ワインソムリエ.com:白ワイン作りのバトナージュとは(バトナージュの目的・効果を解説)
バトナージュとよく似た概念に「シュール・リー(Sur Lie)」があります。どちらも「澱をワインに接触させてうまみを引き出す」という目的は同じですが、アプローチが根本的に異なります。これは重要な違いです。
シュール・リーはフランス語で「澱の上」という意味で、文字通り澱の上にワインを静置し続ける製法です。澱引き(不純物除去のために上澄みを移す作業)をせずにそのまま数か月間置いておくことで、自然にじわじわと旨み成分がワインに移っていきます。代表的なのが、フランス・ロワール地方のミュスカデや、日本の甲州ワインで使われる「甲州シュール・リー」です。
バトナージュはシュール・リーよりもワインにふくよかさを与えます。これが原則です。 同じ澱接触でも、「静置」と「攪拌」では最終的なワインの個性が変わってくるのです。どちらが優れているというわけではなく、造り手が目指す白ワインのスタイルによって使い分けられています。軽くてフレッシュな白ワインを目指すならシュール・リー、しっかりとしたボディとクリーミーな口当たりを求めるならバトナージュ、という選択をするワイナリーが多いです。
サイゼリヤでベルデッキオ(ボトル白ワイン)を飲むとき、「このまろやかさはシュール・リーかな、バトナージュかな」と想像しながら飲むと、また楽しみが増えますね。
「ワインの醸造技法なんて難しい話、サイゼリヤで飲むのに関係あるの?」と思う方もいるかもしれません。実は関係あります。 バトナージュという概念を一つ知っておくだけで、サイゼリヤのワインを選ぶ視点がぐっと変わります。
サイゼリヤのワインは、イタリアのモリーゼ州に構える契約ワイナリーで専用に醸造されたものです。グラスワインが1杯100円、1500mlのマグナムボトルが1,100円(約15杯分)という驚異的なコスパを実現しているのは、この専用ワイナリーによる直輸入という仕組みが大きく貢献しています。
さてここで重要な点があります。サイゼリヤの白ワインはすっきり系かふくよか系かを把握して注文するのがコツです。
バトナージュが使われたようなコクとまろやかさのある白ワインは、脂っこい料理や濃い味付けの料理と相性が良い傾向があります。サイゼリヤのメニューで言えば、エスカルゴのオーブン焼き、ほうれん草のソテー、チーズ系のピザなどとよく合います。一方でシュール・リー的なフレッシュな白ワインは、カルパッチョや冷製パスタなど軽い料理に合わせると料理の繊細な味を引き立ててくれます。
ワインメニューを眺めながら「これはどんな醸造をしているんだろう」と考えてみると、サイゼリヤでの食事がより豊かな体験になります。これは使えそうです。
ワインのラベルや商品説明に「シュール・リー」「バトナージュ」「熟成」などの記載があるかを確認するだけで、事前に味わいの見当をつけることができます。スマートフォンで「ワイン名+バトナージュ」と検索するだけでも情報が出てきますので、ぜひ試してみてください。
ここからは少し踏み込んだ、実践的な知識をお届けします。バトナージュを経たワインには、いくつかの共通した味わいの特徴があります。これを覚えておくと、グラスで一口飲んだだけで「あ、これバトナージュしてるな」と気づけるようになります。
これらの特徴は、シャルドネ品種のワインに特に顕著に現れます。ブルゴーニュのシャブリ以外の白ワイン(マコン、ムルソーなど)やカリフォルニアのシャルドネがバトナージュの典型例として知られています。
サイゼリヤでこのようなバタリーでコクのある白ワインを楽しみたい場合は、ベルデッキオよりも少し値段の高いボトルワインを試すのも一つの手です。 サイゼリヤのボトルワインは1,100円〜2,200円程度のラインナップがあり、価格帯が上がるほど熟成工程にこだわりが見られることが多いです。
一方で注意点もあります。バトナージュを「多くやったもの=高品質」と単純に結びつけるのは間違いです。 近年の醸造トレンドでは、バトナージュの回数を減らしてフレッシュさやミネラル感を優先する生産者も増えています。前述のフィラディスの記事にもあるように、気候変動による糖度上昇が続く中で、「やればやるほど良い」ではなくなってきているのが現実です。バトナージュは頻度と回数の管理が命です。
白ワインのラベルに「シュール・リー」と書いてあるものと、バトナージュをしっかり行ったワインを飲み比べてみると、違いがよりクリアに感じられます。サイゼリヤでは難しいですが、ワインショップでこの2種類を選んで家で試してみると、バトナージュの意味がより体感として身につきます。
フィラディスワインニュース:バトナージュにおける時代の変化(世界の醸造家の最新事情)