サイゼリヤのピザを「安くて十分おいしい」と思っているなら、実は本場クオリティを400円で食べていることになります。
「ガンベロロッソ(Gambero Rosso)」はイタリア語で「赤いエビ」を意味します。1986年に創刊されたイタリア最大の食文化メディアで、ワイン・料理・ピザを対象にした年次ガイドブックを毎年発行しています。日本でのミシュランガイドの立場に相当しますが、イタリア国内での影響力はミシュランをはるかに超えるとも言われます。
評価員は匿名で店を訪れ、味・食材・技術・サービスを総合的に採点します。ガイドには部門ごとに異なるシンボルが使われており、ファインダイニングには「フォーク(フォルケッタ)」、トラットリアには「エビ(ガンベリ)」、そしてピッツェリアには「ピザのスライス(スピッキ)」が用いられます。
ピザ部門では1〜3スライスで評価されます。90点以上が「3スライス(トレ・スピッキ)」という最高評価で、これはミシュランの三ツ星に相当する栄誉です。実力のある店がわかります。
2024年に発表された「世界のトップ・イタリアンレストラン2025東京版」では、過去最多の14軒が受賞し、ピッツェリア部門の3スライスを獲得したのは「ザ ピッツァバー on 38th(マンダリン オリエンタル 東京内)」と「ナポリスタカ神谷町店」の2軒のみでした。全世界で15店舗前後しか選ばれないという超難関な評価です。
また、リストランテ(ファインダイニング)部門では2025年度にイル・リストランテ ルカ・ファンティン、アルマーニ / リストランテ、グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウの3軒が最高の3フォークを受賞しており、東京のイタリアン水準の高さが世界的に認められています。
参考:ガンベロロッソが選ぶ「世界のトップ・イタリアンレストラン2025」発表(サポリータ)
【SAPORITA】ガンベロ・ロッソが選ぶ「世界のトップ・イタリアンレストラン2025」受賞店一覧(東京版)
ガンベロロッソが高評価を与えるピザには、いくつかの明確な共通点があります。その最も重要な要素が「生地の発酵時間」です。
イタリアでは24時間発酵はスタンダードで、48時間・72時間の長時間発酵が高評価店の標準になっています。長時間発酵によって生地中の酵母がゆっくりと糖を分解し、複雑な風味と独特の旨みが生まれます。消化が良いのも特徴です。
具体的に比較すると、スーパーや宅配の冷凍ピザは発酵時間がわずか数時間程度のものが多く、食べた後に胃がもたれやすい理由はここにあります。一方でガンベロロッソ評価店は72時間以上かけた生地を使用するケースもあり、食後の軽さがまるで違います。
次に重要なのが「使用する小麦粉の質」です。カゼルタの名店「イ・マサニエッリ」のオーナー、フランチェスコ・マルトゥッチは13種類ものオリーブオイルを使い分けることで知られます。ナポリの「50カロ」では、小麦粉の質を指先で確認しながら水を加えるという職人技が評価を支えています。
そして焼き方です。ガンベロロッソで高評価を受けるピザの多くは薪窯(まきがま)で焼かれています。薪窯は450〜500℃に達し、60〜90秒という短時間で一気に焼き上げます。一般的な家庭用オーブンの最高温度が約250℃であることと比べると、約2倍近い高温です。東京ドームのグラウンドを約1枚分のサイズ(13,000㎡)に相当するような熱量の差が、生地のサクモチ食感を生み出します。
これが本場ナポリ基準のピザです。
参考:イタリアでの長時間発酵ピザの健康効果(アメブロ記事)
【参考】長期発酵したパンやピザがイタリアで人気な理由と消化への影響
ガンベロロッソが認める一流ピザ店に共通するのは、食材の徹底したこだわりです。特にチーズ・トマト・オリーブオイルの3つは、ピザの味を決定づける核心的な要素です。
まずチーズについて。ナポリピザの最高峰に欠かせないのが「モッツァレラ・ディ・ブッファラ(水牛のモッツァレラ)」です。通常の牛乳チーズと異なり、水牛のミルクを100%使用することで、ミルキーでコクのある濃厚な甘みが生まれます。生産地はイタリア南部のカンパーニャ地方が有名で、熟練したチーズ職人によって手作りされます。
次にトマトです。ガンベロロッソ評価店の多くはヴェスヴィオ火山の麓で育てられた「サン・マルツァーノ種」のトマトを使用します。火山灰を含んだ肥沃な土壌で育つこのトマトは、甘みと酸味のバランスが絶妙で、日本のスーパーで手に入るトマト缶とは味の次元が異なります。
そしてオリーブオイルです。ガンベロロッソ評価店では、酸度が0.3%以下のエキストラバージンオリーブオイルを使用するのが標準です。高品質なオリーブオイルは、ピザの香りを引き立て、後味に心地よいフルーティーさをプラスします。
実はサイゼリヤも同じ路線を歩んでいます。サイゼリヤが使用するオリーブオイルは酸度0.25〜0.35%のイタリア産で、バッファローモッツァレラも現地から直輸入しています。400円でこのクオリティを実現しているのは、大量仕入れによるコスト最適化の賜物です。
食材の質が分かります。
参考:サイゼリヤの食材へのこだわり(公式サイト)
【サイゼリヤ公式】バッファローモッツァレラへのこだわりと直輸入の理由
ガンベロロッソで3スライス(最高評価)を受賞したピッツェリアは、世界中で年間15〜20店舗ほどしかありません。日本からは毎年2店舗前後が選ばれており、これは世界的に見ても非常に高い水準です。
代表格が「ザ ピッツァバー on 38th(マンダリン オリエンタル 東京内)」です。ミシュランガイド東京でビブグルマンを6年連続受賞し、「50 Top Pizza World 2024」では世界第3位を獲得するという驚異的な実績を持ちます。38階からの景色とともに食べる本格ナポリピザは、1枚3,000〜5,000円前後という価格設定です。
もう1店舗が「ナポリスタカ神谷町店」です。こちらはガンベロロッソ国際版で日本から世界最優秀ピッツェリア(グローバル部門)に選ばれた経歴もあり、ナポリの下町にいるような雰囲気が特徴です。
では、この2店舗に共通する体験価値は何でしょうか。それは「ピザを食べるための環境も評価に含まれる」という点です。ガンベロロッソの評価員はサービス・内装・雰囲気も総合的に採点します。単に美味しいだけでは3スライスには到達できません。
また、独自視点でお伝えすると、ガンベロロッソ評価店を訪れる際に多くの人が見落としがちなのが「ペアリング」です。イタリアでピザと合わせる飲み物はワインではなくビールというのが暗黙のルールで、評価店の多くが地元の職人ビールを70〜200種類以上ラインナップしています。ピザの味を引き立てる飲み物の選択こそ、本場の楽しみ方です。
サイゼリヤのピザとハウスワインの組み合わせも、このイタリアの美食文化の入口として考えると、安くておいしい以上の価値があります。これは使えそうです。
参考:マンダリンオリエンタル東京のガンベロロッソ受賞プレスリリース
【PR TIMES】マンダリン オリエンタル 東京「ピッツァバー on 38th」がガンベロロッソ3スライス受賞(2024年版)
ガンベロロッソが認める本場ピザの基準を知った今、あらためてサイゼリヤのピザを見直すと、驚くべき共通点が浮かび上がります。
バッファローモッツァレラのマルゲリータピザ(400円)に使用されるチーズは、イタリア南部カンパーニャ地方の老舗メーカーから直輸入した水牛のミルク100%のものです。ガンベロロッソ高評価店が使う食材の基準とほぼ一致します。
オリーブオイルはシチリア産海塩入りで、酸度0.25〜0.35%のイタリア産エキストラバージンオリーブオイルを使用しています。前述の通り、ガンベロロッソ評価店が求める酸度0.3%以下という水準をクリアしています。
ではなぜ400円なのか。答えは「スケールメリット」にあります。サイゼリヤは世界に約1,500〜2,000店舗を展開しており、食材を大量一括購入することで現地の生産者から最高品質の素材を格安で仕入れられます。本場イタリアの店舗よりも安く提供できているという事実は、同社自身も認めるほどです。
一方で、長時間発酵の生地技術や薪窯焼きという点はさすがにチェーン店規模では再現が難しい部分です。この差が、ガンベロロッソ3スライス店と400円ピザの違いです。食材品質は一流、調理法はファミレスという整理ができます。
サイゼリヤでガンベロロッソ的な楽しみ方をするなら、バッファローモッツァレラのマルゲリータピザにデキャンタのハウスワイン(100ml / 99円)を合わせるのがおすすめです。イタリアンの文脈でいえば、食材の本質を500円以下で体感できる、世界でも類を見ないコスパの食体験です。
ガンベロロッソとサイゼリヤ、この2つの名前をセットで覚えておけば十分です。
参考:ガンベロロッソが選ぶイタリアで一番美味しいピザ15選(Vokka.jp)
【Vokka】ミシュランより人気!ガンベロ・ロッソが選ぶイタリアで一番美味しいピザ15選