グリーチャのチーズはサイゼリヤから消えたのに、自宅で再現するとあの味を超えられます。
グリーチャとは、グアンチャーレ(豚の頬肉の塩漬け)とペコリーノ・ロマーノ(羊乳チーズ)、そして黒こしょうだけで作るローマの伝統パスタです。卵もトマトも使いません。これが基本です。
見た目はとてもシンプルで地味に見えるかもしれませんが、グアンチャーレから出る豊かな脂の旨味と、ペコリーノの強い塩気がパスタに絡むことで、素材が少ないとは思えないほど奥深い味わいに仕上がります。
「白いアマトリチャーナ」「卵なしカルボナーラ」と表現されることもあります。どちらも正確ではありませんが、イメージとしては掴みやすいかもしれません。正確に言えば、グリーチャはカルボナーラとアマトリチャーナ、両方の「元祖」に当たる料理です。つまり、子どもたちが有名になりすぎて、親が目立たなくなった状態ですね。
名前の由来についても興味深い説が複数あります。一つはイタリア中部に位置する「グリシャーノ村(Grisciano)」が発祥という説。かつてローマ近郊の羊飼いが夏の放牧でグリシャーノ村を訪れ、村人が持つグアンチャーレと、羊飼いが持つペコリーノチーズを物々交換したことで生まれたとされています。もう一つは、ローマの食料品店主たちが質素な粉まみれの服を着ていたことから「グリージ(灰色)」と呼ばれており、その人々が手元の食材で作った賄い飯だったという説です。どちらも人間味にあふれた由来ですね。
| 名前の由来 | 内容 |
|---|---|
| グリシャーノ村説 | ラツィオ州グリシャーノ村で羊飼いと村人の物々交換から誕生。今もグリーチャ祭を開催 |
| グリージ(灰色)説 | 粉まみれのローマの食料品店主たちの賄い飯が起源との説 |
サイゼリヤファンにとって、グリーチャはなじみ深い名前でもあります。2016年、イタリア中部地震の復興支援として「アマトリチャーナ ビアンコ」という名前でサイゼリヤに登場した際、これがまさにグリーチャのスタイルに近いパスタでした。パルマ産パンチェッタとペコリーノを使い、399円で提供され、一皿につき100円が被災地へ寄付される仕組みでした。その後も2017年にグランドメニュー「アマトリチャーナ ビアンカ」として定番化した実績があります。
グリーチャが何かということです。シンプルかつ奥深い料理だということが伝わりましたでしょうか。
参考:サイゼリヤでのアマトリチャーナ(グリーチャ系)の提供歴については以下が詳しいです。
アマトリチャーナ - サイゼリヤはちゃんとおいしい(makitani.net)
「ローマ三大パスタ」という言葉を聞いたことがあるサイゼリヤファンは多いでしょう。カルボナーラ、アマトリチャーナ、カチョエペペの3つです。実はイタリア国内では、グリーチャを加えた「四大パスタ(I quattro primi romani)」として語られることが多いのが実情です。日本では知名度が低いため三大扱いされがちですが、本場ではカルボナーラと並ぶほど重要な存在です。
意外ですね。ではなぜグリーチャはここまで地味な扱いになってしまったのでしょうか。
その理由は、見た目の説明がしにくいことにあります。「トマト抜きのアマトリチャーナ」「豚の脂を足しただけのカチョエペペ」という形で他の料理との比較で説明されがちで、グリーチャ単独の魅力が伝わりにくかったのです。しかし、そのポジションをローマパスタの進化系統で整理すると、グリーチャの重要性がよくわかります。
ローマ四大パスタはすべて「グリーチャを経由して」生まれているといえます。これが基本です。
カルボナーラの歴史は1940年代と意外と新しく、第二次世界大戦後に駐留米軍が持ち込んだ乾燥卵とベーコンを、ローマの料理人がグリーチャの構成に組み合わせたことが起源とされています。一方でグリーチャ自体の歴史は、ペコリーノ・ロマーノが2000年以上前からローマ軍の食料として使われていたことを考えると、それよりはるか以前にまで遡ります。
つまりグリーチャは、ローマ料理の源流を今も体現している「生きた歴史」なのです。
食の変遷という観点から見ると、トマトがイタリアに伝わったのは16世紀で、食用として一般に普及したのは19世紀のことでした。それ以前のローマでは、グリーチャのようなトマトを使わないパスタが主流だったわけです。保存食としての豚の塩漬け肉(グアンチャーレ)と羊のチーズ(ペコリーノ)は、冷蔵技術のない時代に栄養と旨味を長期保存する知恵そのものでした。
参考:ローマ四大パスタの歴史的系譜については以下の記事が体系的にまとまっています。
【完全保存版】ローマ4大パスタの進化と歴史(cozy-hack.com)
グリーチャの味の核は、グアンチャーレとペコリーノ・ロマーノの2つに集約されます。これが条件です。
グアンチャーレは豚の頬肉(豚トロの部位)を塩漬けにし、2〜3週間ほど熟成・乾燥させた食材です。「guancia(グアンチャ)=頬」という意味を持つイタリア語が名前の由来です。豚バラを使うパンチェッタとは異なり、頬肉は運動量の多い部位であるため脂が締まっており、加熱しても溶け出しにくいのが特徴です。フライパンで弱火にかけると、透明でツヤのある豚脂がじわじわと染み出してくる様子はまさに「旨味の抽出」そのものです。
注意点として、日本のスーパーではグアンチャーレはほとんど入手できません。輸入食材店やネット通販での購入が現実的です。自宅で作る場合はパンチェッタで代用するのが一般的で、その際は黒こしょうを少し多めに加えると香りのバランスが整います。
ペコリーノ・ロマーノは羊のミルクから作られるハードチーズで、なんと2000年以上前からローマ軍の食料として使われてきた記録があります。イタリア最古のチーズとも言われています。塩味が非常に強く、クセのある風味が特徴で、日本人にはとっつきにくいと感じる人も多いですが、ローマではチーズといえばペコリーノ・ロマーノを指すほど定番の存在です。
サイゼリヤのテーブルチーズとしても長年使われてきましたが、2023年7月からは無料提供だった粉チーズ(グランモラビア)が有料化され、ペコリーノ・ロマーノは姿を消しています。コスト管理の厳しい飲食業界を体感する出来事でしたね。
家庭でペコリーノを入手する場合は、チーズ専門店やカルディ、成城石井などで購入できます。塩味がかなり強いため、最初は少量から加えて調整するのが安心です。ペコリーノとパルミジャーノ・レッジャーノを半量ずつ混ぜると、塩気がマイルドになり日本人好みの仕上がりになります。
参考:グアンチャーレとパンチェッタの違いについて詳しく説明されています。
グアンチャーレとは何?パンチェッタやベーコンとの違い(secondocasa-okinawa.com)
グリーチャの作り方で最も大切なポイントを先に言います。「火を止めてからチーズを入れる」ことです。
これだけ覚えておけばOKです。チーズを高温のフライパンに直接加えてしまうと、チーズのタンパク質が急激に固まり、ソースがダマになってしまいます。失敗の8割以上がここで起きているといっても過言ではありません。
以下が基本的な作り方の手順です。
乳化という工程が味の鍵を握っています。パスタの茹で汁にはでんぷん質が溶け込んでいて、これが脂と水を結びつける乳化剤の役割を果たします。これによってソースがパスタ全体に均一にまとわりつき、食べたときの口当たりが一気になめらかになります。
茹で汁は惜しまず使うのがコツです。足りないと感じたら少しずつ追加して、パスタがソースをしっかり纏うようにしていきましょう。
チーズを加える直前の温度が高すぎるとダマになり、低すぎると溶けません。この「ちょうどいい温度」をつかむのが最初は難しく感じることも多いですが、何度か作ると感覚でわかるようになります。厳しいところですね。
黒こしょうは挽きたてを使うと香りが段違いです。市販の粉末タイプよりも、ホールペッパーをその場でミルで挽く方法を選ぶと、グリーチャの風味が格段に引き立ちます。
参考:伝統的なグリーチャのレシピ詳細はこちらが参考になります。
グリーチャとは?本場ローマの伝統パスタを再現する絶品レシピ(pasta-bible.com)
サイゼリヤのメニューにはカルボナーラやアマトリチャーナが登場してきましたが、グリーチャと比べると何がどう違うのでしょうか。整理しましょう。
| パスタ名 | グリーチャとの違い | 特徴的な味わい |
|---|---|---|
| グリーチャ | 原型。グアンチャーレ+ペコリーノ+黒こしょうのみ | 素朴・力強い豚の旨味 |
| カルボナーラ | グリーチャ+卵(黄身)を加えたもの | 濃厚・クリーミー。生クリームは本場では不使用 |
| アマトリチャーナ | グリーチャ+トマトを加えたもの | 酸味と豚旨味が合わさり華やか |
| カチョエペペ | グリーチャからグアンチャーレを除いたもの | チーズと黒こしょうのみ。最もストイック |
カルボナーラとの違いで多くの人が驚くのは「グリーチャの方が歴史が長い」という点です。カルボナーラは1944年前後、第二次世界大戦中のローマに駐留したアメリカ軍の食料(乾燥卵とベーコン)がきっかけで生まれたとされており、グリーチャより遥かに新しい料理です。つまり「カルボナーラの子ども版がグリーチャ」ではなく、「グリーチャがカルボナーラの元になった」というのが正確な歴史です。
また、カルボナーラに生クリームを加えることは本場イタリアでは認められておらず、イタリアの農相が「偽カルボナーラ」として公式に問題提起したほどです。グリーチャは卵も生クリームも使わないため、そういった議論とは一切無縁のピュアな伝統料理といえます。
アマトリチャーナとの関係も興味深いです。サイゼリヤでも2022年に期間限定で本格的なアマトリチャーナが登場しましたが、イタリアからの豚肉製品の一時輸入停止(2022年1月〜)の影響で在庫切れとともに終了。これ以降、サイゼリヤのメニューからイタリア直輸入のグアンチャーレを使ったパスタは姿を消しています。その意味でも、自宅でグリーチャを再現できる価値はより高まっているといえます。
グリーチャは伝統的にはグアンチャーレ一択ですが、家庭でのアレンジも十分に楽しめます。厳しいところですが、グアンチャーレが手に入らないことがほとんどなので、現実的な代用や工夫を知っておきましょう。
まず、パンチェッタはグリーチャの代用食材として最も近い選択肢です。グアンチャーレより塩味がやや強いため、ペコリーノの量を全体の2割ほど減らすとバランスが整います。ベーコンはスモーキーな香りが独特で、グリーチャの風味とは少しズレますが、気軽に楽しむ「グリーチャ風パスタ」として割り切れば全く問題ありません。
パスタの種類については、本場イタリアではショートパスタのリガトーニやメッツェマニケを使うスタイルが好まれる傾向があります。溝が入ったリガトーニはソースが絡みやすく、グアンチャーレの脂が筒の内側にまで入り込むため食べ応えがあります。スパゲッティで作る場合は1.7mm〜2.0mmの太めを選ぶとソースとのバランスが取りやすいです。
アレンジの一つとして、「そら豆のグリーチャ」があります。旬の5〜6月にそら豆をプラスするスタイルで、ミシュランシェフのレシピにも登場するバリエーションです。そら豆のほのかな甘みとグアンチャーレの塩旨味が組み合わさり、季節感のある一皿になります。玉ねぎやニンニクを加える「アレンジ版グリーチャ」も家庭では喜ばれることが多いですが、伝統派のイタリア人からは「邪道」と言われる可能性があることも知っておきましょう。意外ですね。
また、ペコリーノ・ロマーノが手に入らない場合はパルミジャーノ・レッジャーノで代用できます。ただし風味の強さが全く異なるため、パルミジャーノ単体で作るとグリーチャ特有の「力強さ」が薄まります。両方を半量ずつ混ぜる方法が最も食べやすく、本場のニュアンスを残しやすいアプローチです。
グリーチャ自体は作り置きに向きません。チーズが冷えると固まりやすく、再加熱でも香りと食感が落ちてしまいます。少量の茹で汁と一緒に弱火でゆっくり温め直せばある程度は回復しますが、それでも作りたてには敵いません。食べる直前に作るのが鉄則です。
参考:そら豆入りグリーチャやリガトーニを使ったバリエーションについては以下が参考になります。
ローマパスタの源流"グリーチャ"|ホソピーのイタリア郷土料理(note.com)