実は、ピノグリは黒ブドウのピノ・ノワールから生まれた品種なのに、白ワインになります。
ピノグリというブドウ品種の名前を聞いて、多くの人は「白ワイン用の白いブドウ」を想像するのではないでしょうか。ところが実態はまったく異なります。ピノグリは、赤ワインの王様として名高いピノ・ノワールが突然変異して生まれた品種で、果皮の色はグレーがかったピンクや薄い青紫色をしています。フランス語で「ピノ・グリ」を直訳すると「灰色の松ぼっくり」という意味になります。つまり、白ワインでありながら、その先祖は黒ブドウなのです。
この事実が、ピノグリのワインを他の白ワインと一線を画す個性につながっています。果皮が濃いめであるため、出来上がるワインの色調は通常の白ワインより黄金色に近く、濃い麦わら色になることも珍しくありません。アルザス産のものは特に顕著で、グラスに注ぐと「これ本当に白ワイン?」と目を疑うほど色がついていることもあります。
| 品種 | 親品種 | 果皮の色 | ワインの色調 |
|---|---|---|---|
| ピノ・グリ(アルザス) | ピノ・ノワール(突然変異) | グレーがかったピンク〜薄紫 | 濃い麦わら色〜黄金色 |
| シャルドネ | ピノ・ノワール×グエ・ブラン | 緑がかった黄色 | 淡い黄色〜麦わら色 |
| リースリング | 野生の白ブドウ | 淡い緑がかった黄色 | 淡い黄色〜薄い金色 |
香りの面でも、ピノグリは際立った特徴を持っています。パイナップルやマンゴーといったトロピカルフルーツのアロマ、アプリコットのような甘い果実香、さらに蜂蜜や蜜蝋のようなニュアンスが複雑に絡み合い、他の白ワインには出せない芳醇さを醸し出します。成城石井でも販売されている「ソレ ピノグリ」のラベルには「ピノグリ特有のスモーキーな香り」という表現があります。これが黒ブドウ由来の品種ならではの個性です。
味わいは辛口でありながら、口の中でのボリューム感がリースリングやシャルドネとは明らかに異なります。ふくよかでオイリーな口当たりと、長い余韻がアルザス産ピノグリの最大の魅力。つまりピノグリが基本です。
参考:ピノ・グリの品種特性・産地・香りについての詳細解説
「アルザス」という産地名を聞いても、ピンと来ない人も多いかもしれません。しかしこの地こそ、ピノグリという品種が最も高貴な姿に進化する場所です。アルザスはフランス最東部に位置し、ライン川を挟んでドイツと国境を接する地域です。南北に約170kmにわたってブドウ畑が広がり、ワイン街道沿いに103の村が点在しています。
アルザスの気候は「半大陸性気候」と呼ばれ、フランス国内でも年間降水量が500〜600mmと最も少ない産地のひとつです。東京の年間降水量が約1,500mmであることを考えると、その乾燥ぶりがイメージできるでしょう。これは西側にそびえるヴォージュ山脈が、西から流れてくる雨雲を遮断するためです。その結果、アルザスのブドウ畑には年間を通じて豊富な日光が降り注ぎ、ブドウの糖度がしっかりと上昇します。
この土壌は非常に複雑で、花崗岩質・火山性堆積岩・泥灰岩質などが複雑に入り混じっています。このテロワールの多様性こそが、同じピノグリというブドウでも畑によってまったく異なる個性を持つワインが生まれる理由です。これがアルザスの醍醐味といえます。
アルザスのピノグリは辛口が基本ですが、糖度が上がりやすいというブドウ本来の性質を利用した「ヴァンダンジュ・タルディヴ(遅摘み甘口)」も造られています。これが知られていない事実で、「辛口のつもりで買ったらほのか甘かった」ということが起こりうるのです。ラベルに「Vendange Tardive」または「SGN(セレクシオン・ド・グラン・ノーブル)」の表記があれば甘口の証拠です。辛口が条件です。
参考:アルザスワイン産地とグランクリュについての解説
アルザスワインの魅力とは?特徴とおすすめワイン10選|ワインソムリエ
サイゼリアといえばイタリアンファミレスですが、実はその料理の多くがアルザス産ピノグリと非常に良い相性を持っています。「白ワインは魚介や淡白な料理に」という常識がありますが、アルザス産ピノグリはそのルールを軽々と超えてきます。それが面白いところです。
ピノグリは黒ブドウ由来のボリューム感と、豊かな果実味を持っているため、鶏肉・豚肉・チャーシューのような「白いお肉」の料理と相性が抜群です。ソムリエの田邉公一氏が監修した資料でも、「アルザスのピノグリとおつまみチャーシューとのペアリング」が推薦されています。つまり、肉料理にも合わせられるということですね。
一方で、注意したいのが辛口系のさっぱりしたフリット(揚げ物)です。アルザス産ピノグリはボリューム感が強いため、シンプルな揚げ物に合わせると、ワインの主張が勝ちすぎることがあります。こういう場合は、同じアルザスでもリースリングやクレマン・ダルザス(スパークリング)の出番です。ペアリングは料理の「重さ」に合わせて選ぶが原則です。
サイゼリアの定番メニューとのペアリングに興味がある方は、ソムリエ監修の詳細な解説ページも参考になります。
サイゼリヤのワインと料理のペアリング|田邉 公一 Wine director
アルザス産ピノグリを買うときに、実際に困るのが「辛口なのか甘口なのかわからない」という点です。フランスの他の産地のワインは、シャブリならシャープな辛口、ソーテルヌなら甘口と、産地名でおおよその味わいが推測できます。ところがアルザスは、同じ産地・同じ品種でも辛口から貴腐甘口まで幅広いスタイルが混在しているのです。この「わかりにくさ」がアルザスの個性であり、初心者には少し難しい部分でもあります。
実はこれには明確な見分け方があります。ラベルにいくつかのキーワードを探すだけです。
| ラベルの表記 | フランス語の意味 | 味わいの傾向 |
|---|---|---|
| (表記なし) | スタンダード | 基本的に辛口〜ほのか甘口 |
| Vendange Tardive(ヴァンダンジュ・タルディヴ) | 遅摘み | 甘口〜辛口(リッチなボディ) |
| Sélection de Grains Nobles(SGN) | 貴腐ブドウ選択 | 極甘口の貴腐ワイン |
| Grand Cru(グラン・クリュ) | 特級畑 | 辛口が多いが複雑味が高い |
アルザスワインはフランスの中でも珍しく、ラベルに品種名を大きく表記する文化があります。ボトル自体もドイツワインでおなじみの細長いフルート型を採用しており、他のフランスワインとは一目でわかる個性的なシルエットです。店頭で「アルザス」「Pinot Gris」の文字と細長いボトルを見かけたら、それがピノグリです。これは使えそうです。
また、アルコール度数がひとつの目安になります。一般的にワインのアルコール度数が13%以上であれば辛口の傾向が強く、それ以下になるほど甘口の可能性が上がります。ただしアルザスのピノグリは豊かなボリューム感があるため、辛口でも14〜15%前後になるケースも珍しくありません。ラベルを確認するひと手間が、失敗しないワイン選びの条件です。
参考:アルザスワインのラベルの読み方と辛口・甘口の見分け方について
縦書きラベルは見逃すな!アルザスワインの個性と種類|note
サイゼリアのワインはフレッシュ感を楽しむものが多く、「ワインは若いうちに飲む」という感覚が染み付いている方も多いでしょう。実はアルザス産ピノグリに限っては、この常識が通用しない側面があります。これは意外ですね。
一般的に白ワインは早めに飲むことが推奨されます。フレッシュなフルーツ香と酸味が魅力の品種は、時間が経つほどその清涼感が失われていくからです。ところがアルザス産ピノグリは糖度が高くなりやすいという性質上、しっかりと熟成させることで「生姜・蜂蜜・スパイス」のような複雑な風味が加わり、まったく違うワインに変身します。この変化こそが、愛好家がアルザスのピノグリに魅了される最大の理由です。
具体的には、グランクリュ格のアルザス産ピノグリを5〜10年熟成させると、若いうちのトロピカルフルーツや蜂蜜の香りが、スモーキーなニュアンスとスパイスのアロマに変化していきます。ブルゴーニュの高級白ワイン(白ワインの頂点とされるムルソーやモンラッシェ)に引けを取らないと評されることもあるほどです。もちろん市販の一般的なアルザスピノグリは若いうちでも十分美味しいですが、良い年のグランクリュを入手できた場合はしばらく「寝かせる」のも一つの楽しみ方です。
ただし、すべてのアルザスピノグリが熟成向きというわけではありません。スタンダードなAOCアルザスのピノグリは、比較的早めに飲むほうが果実味の生き生きとした個性を楽しめます。熟成を前提とするなら、「グランクリュ」の表記があるものか、信頼できるワインショップでヴィンテージを確認してから購入するのがベストです。アルザスワインに詳しい専門店や、エノテカのようなオンラインショップで産地・品種・ヴィンテージを絞り込んで探すのが確実な方法です。熟成ポテンシャルのある1本を見つければ、数年後にまったく違う顔に出会えます。これがアルザスワインの奥深さです。
参考:ピノグリの熟成による風味変化とソムリエによる産地別解説