トラパネーゼ パスタのソースは、火を使わないのに本格的な旨みが出る。
サイゼリヤで「トラパネーゼソースの冷製スパゲッティ」が初登場したのは2021年の夏のことです。価格はわずか税込500円で、7月から8月にかけての期間限定メニューとして全店舗で提供されました。「アーモンドとトマトを合わせたパスタ?」と最初は首をかしげたサイゼリヤファンも、一口食べるなり「これは何だ」と驚いた方が続出しました。実際、SNSには絶賛の声が多数投稿され、夏の定番候補として期待する声も多く上がっていました。
トラパネーゼ(Trapanese)とは、イタリア・シチリア島の西部に位置する港町トラパニの名前に由来します。正式名称は「ペスト・アッラ・トラパネーゼ(Pesto alla Trapanese)」と呼ばれるパスタソースで、アーモンド・フレッシュトマト・バジル・にんにく・オリーブオイル・ペコリーノチーズを組み合わせて作ります。見た目はトマトソースに似ていますが、ナッツのコクとハーブの香りが複雑に絡み合う、深みのある味わいが特徴です。
よく比較されるのが「ジェノベーゼ」との関係です。トラパネーゼはジェノベーゼの親戚のような存在と言われますが、松の実の代わりにアーモンドを使い、さらにトマトを加えている点が大きく異なります。つまり、北イタリアが生んだ「緑のペスト」に対して、南イタリアのシチリアが生んだのが「赤のペスト=トラパネーゼ」ということです。
サイゼリヤがこのソースを採用した背景には、イタリアの本物の食材・レシピにこだわるブランドポリシーがあります。サイゼリヤはパスタをイタリアから直輸入し、本場のレシピに忠実であることが知られています。その姿勢がトラパネーゼという"通好みのシチリア郷土料理"をメニューに取り入れた理由のひとつと言えるでしょう。これは使えそうです。
サイゼリヤのトラパネーゼソースの冷製スパゲッティ詳細(2021年夏季期間限定・500円)|makitani.net
トラパネーゼの歴史を語るうえで外せないのが、シチリア島という土地の特殊性です。シチリア島は四国よりも大きい島で(面積約25,000km²)、古代ギリシャ・ローマ時代から地中海貿易の十字路として栄えてきました。アフリカ大陸まで約140kmという近さから、アラブ・スペイン・ノルマンなど様々な文化の影響を受けてきた地です。
トラパネーゼ誕生のきっかけとして有力な説は、19世紀にジェノヴァの船乗りたちがトラパニに寄港し、故郷のペスト・ジェノベーゼを地元の人々に伝えたというものです。しかしシチリアでは松の実の入手が難しかったため、代わりに豊富に育つアーモンドを使いました。さらにシチリア産の完熟トマトを加えることで、独自の進化を遂げたとされています。
特筆すべきはアーモンドの産地としてのシチリアの重要性です。トラパニ近郊の「ピッツータ・ディ・アヴォラ」という品種のアーモンドは、地中海性気候の温暖な気候と乾燥した土地で育ち、深みのある甘さと香ばしさを持ちます。このアーモンドなしにトラパネーゼは語れないとも言われるほど、地元食材への依存度が高い料理です。シチリア人の食材へのこだわりというのは、すごいですね。
本場では「ブジアーテ」と呼ばれる手打ちパスタと合わせるのが定番スタイルです。ブジアーテとは細い棒(ブーゾ)にパスタ生地を巻きつけて作る、らせん状のロングパスタのことです。このねじれた形状がソースをよく絡ませる効果があります。シチリア州立料理学校のシェフたちもブジアーテとの組み合わせをお墨付きとしており、日本でも輸入食材店やオンラインで乾麺が手に入るようになっています。
シチリア州立料理学校公認シェフによる本場トラパネーゼの基本レシピ|bonsenpai.com
トラパネーゼ最大の驚きは「火を使わない」という点です。伝統的なレシピでは、素材を生のまますりつぶしてペースト状にするだけで完成するため、コンロをまったく使わず所要時間は10分以内に収まります。夏場でもキッチンが暑くならず、パスタを茹でている間にソースを作れる点がサイゼリヤファンの自炊にもぴったりです。
材料(2人分)の目安は以下のとおりです。
| 食材 | 量 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 完熟トマト(またはミニトマト) | 250〜300g | 湯むきして種を除くと滑らか |
| 素焼きアーモンド(皮なし) | 40〜60g | ローストで香ばしさアップ |
| フレッシュバジル | 15〜30枚 | 乾燥より生が断然香り豊か |
| にんにく | 1〜2片 | 苦手な方はオーブンで軽く焼く |
| ペコリーノ or パルミジャーノ | 30g | ペコリーノは塩気が強め |
| EXバージンオリーブオイル | 大さじ3〜4 | フルーティなものが本場に近い |
| スパゲッティ(またはブジアーテ) | 160g | アルデンテに茹でる |
作り方の手順は次のとおりです。
最も陥りやすい失敗は「油を一気に入れてしまうこと」です。オリーブオイルを少しずつ加えながら混ぜることで乳化が安定し、パスタ全体をコーティングするような仕上がりになります。逆に一度に入れると分離してベタつく原因になるため、注意が必要です。
味がぼやけると感じたときは、レモン汁を数滴加えてみてください。酸味が全体の輪郭を引き締め、一気にシャープな味に変わります。これだけ覚えておけばOKです。
トラパネーゼの調理法と材料選びを詳しく解説|chefrepi.com(シェフレピマガジン)
トラパネーゼの要・アーモンドには、見落とされがちな健康効果が凝縮されています。アーモンド約23粒(20g程度)で、1日に必要なビタミンEの60%をカバーできることがわかっています(日本アーモンド協会・グリコ栄養研究所の資料より)。ビタミンEは体内の脂質を酸化から守る抗酸化作用があり、肌の老化防止や免疫機能の維持に関与する栄養素です。つまりトラパネーゼは、おいしく食べながらアンチエイジングも意識できる一皿ということです。
また、トマトに含まれるリコピンは、オリーブオイルと一緒に摂ることで吸収率が大幅に高まることが知られています。トラパネーゼはトマト・オリーブオイル・アーモンドを同時に摂れる構成になっており、栄養学的にも理にかなった組み合わせと言えます。
さらに注目すべきはカロリーバランスです。トラパネーゼソース単体(162g)のカロリーは約140kcalで、脂質は約8.5g。パスタと合わせた場合でも1人前で486kcal程度(マルサンアイの栄養成分データより)と、クリームソース系のパスタ(600〜800kcal超)と比べてかなり抑えめです。ヘルシーなのに食べ応えがあるのは、いいことですね。
ただし、アーモンドは高カロリーな食材でもあります。1日の適切な摂取量は20〜25粒(約25g)が目安です。ソースとして料理に使う分量は問題のない範囲に収まりますが、食べ過ぎには注意が必要です。1食で使うアーモンドは40〜60g程度が一般的なので、残りは翌日のサラダやヨーグルトに少量振りかける使い方が現実的です。
アーモンド約23粒でビタミンEの1日必要量60%を補える根拠データ|アーモンド協会(jp.almonds.org)
サイゼリヤのトラパネーゼ冷製スパゲッティを自宅で再現したいなら、いくつかのポイントを押さえる必要があります。まずソースはやや濃いめに作ることです。冷やすと舌の感覚が鈍くなるため、通常よりも塩・チーズ・にんにくをほんの少し多めにするとバランスが取れます。
パスタは茹でた後に氷水でしっかり冷やすのが基本です。冷やすことでパスタの表面が締まり、ソースが絡みやすくなります。スパゲッティ(1.6〜1.8mm)よりもカッペリーニ(0.9〜1.1mm)のような細麺を使うと、冷製向けの軽やかな食感に近づきます。サイゼリヤでは通常のスパゲッティが使われていましたが、細麺アレンジにするとまた違った楽しさがあります。
仕上げのトッピングにはフレッシュバジルと砕いたアーモンドを使いましょう。砕いたアーモンドは市販の「アーモンドプードル」を代用してもよいですが、荒削りにした素焼きアーモンドのほうが食感のアクセントが強く、本場の仕上がりに近くなります。
サイゼリヤではトッピングにペコリーノロマーノが使われていました。このチーズはパルミジャーノより塩気が強く、羊乳由来の独特の風味があります。市販のチーズでも代用できますが、より本格的な再現を目指すなら、スーパーの輸入チーズコーナーや成城石井などの輸入食材店で「ペコリーノ・ロマーノ」を探してみるのがおすすめです。小さいサイズで500〜800円程度から入手できます。
なお、パスタ以外にもトラパネーゼソースはさまざまな使い方ができます。鶏もも肉のグリルにかける・バゲットに塗ってトースト(ブルスケッタ)にする・白身魚の添え物にするなど、作ったソースを2〜3日内に使いきれる万能ソースとして活用しましょう。保存は清潔なガラス瓶に入れ、表面をオリーブオイルで覆い冷蔵庫で3〜4日が目安です。
トラパネーゼソースの冷蔵・冷凍保存と冷製パスタへの応用方法|secondocasa-okinawa.com