サイゼリヤのメニューを頼むとき、ほとんどの人は料理の内容しか気にしない。でも実は「アッラ」という2文字を知るだけで、イタリア語のメニュー名が一気に読めるようになります。
「アッラ(alla)」という言葉は、イタリア語の前置詞「a(ア)」と女性定冠詞「la(ラ)」が結合してできた形です。つまり「a + la = alla」という合体ルールによって生まれた単語で、文法用語では「冠詞前置詞(preposizioni articolate)」と呼ばれます。
この仕組みはイタリア語全体に広く存在しており、たとえば「a + il = al(アル)」「a + lo = allo(アッロ)」「a + le = alle(アッレ)」のように、後ろに続く名詞の性と数によって形が変わります。料理名では特に頻出する表現で、「alla carbonara(カルボナーラ風)」「alla milanese(ミラノ風)」「alla diavola(悪魔風)」など、サイゼリヤのメニューにも数多く登場します。
では、なぜ料理名にはいつも「alla」の女性形が使われることが多いのでしょうか? これは意外な理由があります。実は「alla ○○」という表現は、もともと「alla maniera ○○(アッラ・マニエーラ ○○)」という完全な形の省略なのです。「maniera(マニエーラ)」とはイタリア語で「やり方・方法」という意味の女性名詞で、「alla maniera veneziana(ヴェネツィアのやり方で)」が縮まって「alla veneziana」になりました。manieraが女性名詞だから、後に続く形容詞も女性形になる——それが「アッラ」を使う理由です。
つまり「アッラ」が原則です。「やり方で」という意味が省略されているだけで、もとを辿れば非常に合理的な構造なのです。
| 表現 | 元の形 | 日本語の意味 |
|---|---|---|
| alla milanese | a + la (milanese) | ミラノ風の(やり方で) |
| alla diavola | a + la (diavola) | 悪魔の(やり方で) |
| alla carbonara | a + la (carbonara) | 炭焼き職人の(やり方で) |
| alla bolognese | a + la (bolognese) | ボローニャの(やり方で) |
イタリア語を勉強し始めた方には、冠詞前置詞の体系を整理した専門解説サイトが参考になります。
イタリア語の前置詞と定冠詞の結合形(preposizioni articolate)の全体表と例文が確認できます。
イタリア語の前置詞と定冠詞の結合 – Dante Learning
「アッラ(alla)」の仕組みを知ると、サイゼリヤのメニューが一気に読めるようになります。まず最もポピュラーな例が「若鶏のディアボラ風」です。
「ディアボラ(diavola)」はイタリア語で「悪魔(女性形)」を意味します。正式名称は「pollo alla diavola(ポッロ・アッラ・ディアボラ)」で、「悪魔のやり方で調理した鶏肉」という意味です。鶏を開いて焼く姿が悪魔のマントを広げた形に見えることや、スパイスの辛さが「悪魔的」だからなど、名前の由来は諸説あります。これは意外ですね。
次に「ミラノ風ドリア」を見てみましょう。「ミラネーゼ(milanese)」とは「alla milanese」=「ミラノ風の」という形容詞で、本来はサフランを使ったリゾットに使われる表現です。サイゼリヤのミラノ風ドリアは、ミートソースがボローニャ地方発祥であること、そのボローニャに近い都市がミラノであることから「ミラノ風」と命名されたとされています。ドリア自体は日本生まれの料理なので、本場イタリアには存在しないという点も面白い知識です。
さらにパスタで言えば「alla bolognese(ボロネーゼ)」という表現も重要です。これは「ボローニャのやり方で作ったソース」を意味し、正式にはイタリアでは「Ragù alla Bolognese(ラグー・アッラ・ボロニェーゼ)」と呼ばれます。日本でいう「ミートソース」は本来トマトの味が前面に出たナポリのソースであり、本場のボロネーゼとは全く別物だということが知ると得する知識です。
サイゼリヤから始めるイタリア語学習の参考として、Xでメニューを使って文法を学ぶアカウントも存在します。
サイゼリヤから始めるイタリア語 (@saize_italiano) / X
「アッラ(alla)」だけ覚えても、実際にはメニューに「al」「allo」「alle」も登場します。これらはすべて同じ前置詞「a」と定冠詞が結合した形で、後ろに続く名詞の「性(男性・女性)」と「数(単数・複数)」によって形が変わります。
男性・単数の名詞が続くときは「al(アル)」になります。たとえば「risotto al pomodoro(リゾット・アル・ポモドーロ)」の「pomodoro(トマト)」は男性名詞の単数形なので「al」です。同じくジェラートの「gelato al cioccolato(チョコレートジェラート)」も「cioccolato」が男性単数名詞なので「al」になります。これが基本です。
男性・単数でも「lo / l'」で始まる名詞が続くと「allo(アッロ)」や「all'(アッル)」になります。有名なのは「risotto allo zafferano(サフランリゾット)」で、「zafferano(サフラン)」は「lo」を取る男性名詞なので「allo」になります。
女性・複数が続くときは「alle(アッレ)」です。代表例が「spaghetti alle vongole(スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ)」の「vongole(アサリ)」で、これは女性名詞の複数形です。サイゼリヤのメニューでも「alle vongole」という表記を目にすることがあります。
| 形 | 元の組み合わせ | 使う場面 | 例 |
|---|---|---|---|
| al(アル) | a + il | 男性・単数名詞(il) | gelato al limone(レモンジェラート) |
| allo(アッロ) | a + lo | 男性・単数名詞(lo) | risotto allo zafferano(サフランリゾット) |
| all'(アッル) | a + l' | 母音始まりの男女名詞 | pasta all'arrabbiata(アラビアータ) |
| alla(アッラ) | a + la | 女性・単数名詞(la) | pollo alla diavola(悪魔風チキン) |
| alle(アッレ) | a + le | 女性・複数名詞(le) | spaghetti alle vongole(ボンゴレ) |
| agli(アッリ) | a + gli | 男性・複数名詞(gli) | spaghetti agli scampi(スカンピ) |
| ai(アイ) | a + i | 男性・複数名詞(i) | tagliatelle ai funghi(タリアテッレ・キノコ風) |
これだけ覚えておけばOKです。「alla」は女性単数の場合、「al」は男性単数の場合、が基本ルールで、あとはメニューを見ながら少しずつ慣れていくのが一番の近道です。
愛知県教育委員会によるイタリア語レッスンページでは、前置詞「a」を使う料理名の具体例が多数掲載されています。
レッスン67 イタリア語の前置詞と料理名 – 愛知県教育委員会
「アッラ」の文法構造がわかったところで、実際にサイゼリヤのメニューに登場するイタリア語の語源を深堀りしてみましょう。知っているだけで会話のネタになる知識が満載です。
まず「カルボナーラ(carbonara)」ですが、これは「炭(carbon)」から派生した言葉で「炭焼き職人風」という意味です。「alla carbonara」=「炭焼き職人のやり方で」が正式な意味になります。もともとは黒コショウをたっぷり使ったローマ発祥の料理で、本場イタリアでは生クリームを使わないのが大原則です。
「アラビアータ(arrabbiata)」は、中東のアラビアとは全く無関係です。イタリア語で「怒った(arrabbiato)」という意味で、唐辛子で辛くした料理を食べると顔が赤くなって「怒った顔」になるように見えることからこの名がついたとされます。サイゼリヤのアラビアータはペンネで提供されますが、実はスパゲッティへの変更が可能という知識も覚えておくと便利です。
「ペスカトーラ(pescatora)」はイタリア語で「漁師(女性形)」を意味します。pescatore(ペスカトーレ)が男性形で、料理名では「alla pescatora」=「漁師のやり方で」となり、シーフードたっぷりの料理全般に使われます。
「ボスカイオーラ(boscaiola)」は「森(bosco)」から来た言葉で、「きこり風」という意味です。きのこや山の幸をふんだんに使った料理に使われる表現で、サイゼリヤのパスタにも登場します。ポルチーニ(porcini)は「子豚」という意味で、丸いきのこの形が子豚に似ていることからこう呼ばれています。
サイゼリヤメニューの語源を100個の雑学としてまとめた参考資料があります。
サイゼリヤのメニューで雑学100個書いてみた – Nostra Vita
サイゼリヤのメニュー名には、「alla ○○」の形式を借りながらも、実は本場イタリアとは大きく異なる「日本独自アレンジ」が含まれているものがあります。知ってると確実に得する情報です。
代表例は「ミラノ風ドリア」です。「ミラネーゼ(alla milanese)」は本来サフランを使ったリゾットに使う表現ですが、サイゼリヤのドリアはミートソースとターメリックライスを組み合わせた完全オリジナル料理です。そもそも「ドリア」自体が日本の横浜で生まれた料理で、イタリアには存在しません。1983年にサイゼリヤが販売を開始し、1日1店舗あたり平均約80食、全店舗では約6万食が売れる超ヒットメニューに成長しました。「ミラノ風ドリア」は正確には「alla milanese」を名乗れないということですね。
一方、本場の味に近いと評価されているメニューも存在します。テレビ番組でイタリア人出演者が「本場の味に最も近い」と評価した1位は「プロシュート(生ハム)」でした。サイゼリヤのオリーブオイルも侮れない品質で、通常のエクストラバージンオリーブオイルの基準酸度が0.8%であるのに対し、サイゼリヤ品は0.25〜0.35%という高品質を誇ります。これは使えそうです。
さらに意外な事実として、「たらこソース シシリー風」はイタリアには存在しない完全な日本オリジナルです。イタリア人の目線では「スパゲッティにたらこソースをかけるのは、寿司をトマトソースに浸して食べるようなもの」と評されたほど。シシリー(シチリア)という本場の地名を借りながらも、中身は日本独自の創作料理というわけです。
また、カルボナーラについても注意が必要です。本場ローマのカルボナーラは生クリームを一切使わず、卵とペコリーノチーズ、グアンチャーレ(豚ほほ肉)、黒こしょうだけで作ります。日本のファミレスで提供されるクリーム系のカルボナーラは「alla carbonara」を名乗っているものの、ローマのシェフからすれば別の料理に見えることもあるようです。
「本場イタリア料理とサイゼリヤの違い」については、イタリア在住の通訳者マッシさんの解説記事も参考になります。
イタリア人「サイゼリヤは本当に最強すぎ」。大絶賛したベスト3 – BuzzFeed Japan
「アッラ」の仕組みと語源を知った今、サイゼリヤでの注文体験はがらりと変わります。実際にメニューを読みながらイタリア語を「体験学習」する方法を紹介します。
まずメニューを開いたら、「alla」「al」「alle」がついた料理名を探してみましょう。「alla diavola」「alla milanese」「alle vongole」など、見つけるだけで楽しい発見があります。意外ですね。そしてその料理名を元の形(alla maniera ○○)に戻してみると、「○○のやり方で作った料理」という意味がリアルに感じられます。
次に「alla ○○」が地名からきているか、職業・人物からきているかを考えてみましょう。地名系では「alla milanese(ミラノ)」「alla bolognese(ボローニャ)」「alla veneziana(ヴェネツィア)」などがあり、職業系では「alla carbonara(炭焼き職人)」「alla pescatora(漁師)」「alla boscaiola(きこり)」があります。地名が語源なら、その地域の食文化を想像できるのが面白いところです。
サイゼリヤのデカンタワインも実はイタリア語学習のヒントが隠れています。デカンタ(decantare)はイタリア語で「静かに注ぐ」という意味で、サイゼリヤのワインはイタリアのモリーゼ州から直輸入しています。メニュー表にはモリーゼ州の紋章まで記載されているので、次回注文する際はぜひ確認してみてください。
本格的にイタリア語を学びたくなった方には、まず前置詞「a」と定冠詞の結合パターン7種類(al・allo・all'・alla・ai・agli・alle)を表でまとめたテキストを手元に置くのがおすすめです。スマホでメモしておくだけで、サイゼリヤに行くたびに実践練習ができます。結論は「サイゼリヤはイタリア語の生きた教科書」です。
イタリア料理の名前と語源を一覧でわかりやすく解説しているサイトも参考になります。
イタリア料理の名前一覧|定番から地方料理まで一挙に解説! – グリル梶井