サイゼリヤのスパークリングワインを頼んでいるのに、そのブドウ品種が「世界一売れているスパークリングワインの原料」だと気づかず、1,100円で6億本分の価値を毎回見逃している。
グレーラという名前は、ワイン好きでもピンと来ない方が多いかもしれません。しかし、その正体は「世界で最も飲まれているスパークリングワイン」の主原料です。
イタリア北東部のヴェネト州を主産地とする白ブドウで、あの「プロセッコ」を造るために不可欠な品種です。2020年の統計では、プロセッコの生産量はシャンパーニュ(約45万キロリットル)に対して約103万キロリットルと、実に2倍以上に達しています。2013年には出荷数量でシャンパーニュを初めて抜き去り、現在では年間6億本以上が世界に向けて出荷されています。数字だけで言えば、500ml缶ジュース換算で約9,000億mlという想像を超えるスケールです。
つまり、グレーラが主役です。
にもかかわらず、日本でグレーラという名前はほとんど表に出てきません。それには明確な理由があります。2009年以前、このブドウは「プロセッコ」という品種名で呼ばれていました。イタリア政府が法改定でワイン名(産地呼称)と品種名を分離させるために「グレーラ」という古い名前を復活させた経緯があります。サイゼリヤのスパークリングワイン「ドンラファエロ」はまさにこのプロセッコ的なスタイルを意識して作られたワインで、1,100円でグレーラの味わいに近いものを楽しめる一本です。
グレーラを知ることが、サイゼリヤワインの楽しみを深める第一歩となります。
プロセッコの生産量・歴史・品種について詳しく解説されたページ(トスカニー・イタリアワイン専門店)
グレーラが持つ独特の香りは、産地の気候条件と切り離して語ることができません。ヴェネト州では、アルプス山脈とアドリア海の両方から冷涼な風が吹き込みます。この自然の恩恵によって、ブドウが熟しすぎることなく、糖度と酸度のバランスが整った状態で収穫できます。
果実の特徴を具体的に挙げると、青リンゴ、白桃、洋ナシ、小さな黄色い花、ほのかなハーブのニュアンスなどです。これらは「軽やかで爽やかなアロマ」として表現され、重たさのないフレッシュな飲み口につながります。グレーラは薄い黄緑色の果皮を持ち、果実は小粒で糖度と酸のバランスが優れています。病気や気候変動にも比較的強い品種であるため、生産安定性も高い点が評価されています。
フレッシュな味わいが基本です。
余韻にはほんのりとした苦みが残ります。これはグレーラ特有の個性で、味に締まりを与える重要な要素です。飲み込んだ後に口の中に残るわずかな苦みが「もう一口」という気持ちを自然に引き出してくれます。
この産地の環境がわかると、サイゼリヤで頼んだスパークリンググラスに少し想像力が加わります。アルプスと地中海のあいだにある丘陵地帯で育ったブドウが、1本1,100円の泡になってテーブルに届いているわけです。冷たく冷やして飲むのが正解で、6〜8℃程度に冷やすことで果実の風味が最も際立ちます。
グレーラのブドウ品種詳細・産地・香りの解説(日欧商事ワイン品種辞典)
グレーラの魅力を最大限に引き出すのが、「シャルマ方式(タンク内二次発酵)」という製法です。この製法とシャンパーニュの瓶内二次発酵との違いを知ると、プロセッコの価格帯が納得できるようになります。
シャンパーニュは1本ずつボトルの中で二次発酵させます。これにより泡はきめ細かく、長期熟成に由来するパンのような複雑な香り(イースト香)が加わります。一方、プロセッコのシャルマ方式は大型の密閉タンクの中で二次発酵させます。タンク1つで大量のワインを一度に処理できるため、コストが大幅に抑えられます。
コストが下がるのは、これが理由です。
もっと重要なのは、風味への影響です。タンク内では酵母との接触が最小限に抑えられるため、グレーラ本来の果実の香りがほぼそのまま残ります。シャンパーニュ製法を使うとイースト香がグレーラの華やかなアロマを上回ってしまうため、グレーラにはシャルマ方式が圧倒的に向いているのです。製法の選択がブドウ品種の個性を守るための戦略になっているわけです。
甘辛度の種類にも目を向けると選択肢が広がります。一般的なプロセッコはブリュット(辛口、残糖量0〜12g/L)かエクストラ・ドライ(やや辛口、12〜17g/L)が主流です。サイゼリヤでグラスのスパークリングを注文する際も、ラベルやメニューに記載があれば確認してみてください。辛口タイプは食事と合わせやすく、やや甘口タイプは食前酒や揚げ物に向いています。
グレーラ由来のプロセッコスタイルワインは、酸と果実味のバランスが優れているため、非常に多くの料理と組み合わせができます。サイゼリヤのメニューで実際に試したい組み合わせを、ペアリングの仕組みから整理しておきます。
ペアリングの考え方はシンプルです。「同調(似た風味同士を合わせる)」か「補完(重さや脂を泡と酸で中和する)」の2軸で考えると選びやすくなります。
| サイゼリヤメニュー | ペアリング理由 |
|---|---|
| 🦐 小エビのサラダ | エビの甘みと酸が同調し、お互いの旨みを引き立てる |
| 🐚 ムール貝のガーリック焼き | 磯の風味とグレーラの花の香りが絶妙にマッチ |
| 🍕 たっぷりコーンのピザ | コーンの甘みと白ブドウの甘みが同調する |
| 🍗 辛味チキン | 泡が辛みを和らげ、果実味が辛味をコーティング |
| 🥗 柔らか青豆の温サラダ | フレッシュな野菜の風味と軽やかな酸が合う |
辛味チキンの組み合わせは意外に感じるかもしれません。しかし辛みの強い料理には、タンニンの強い赤ワインよりも、果実の甘みと泡のあるスパークリングの方が口内での刺激を和らげる効果があります。重要なのは「キンキンに冷やすこと」で、6〜8℃の温度でグラスに注ぐと泡が美しく立ち、香りが最大限に引き立ちます。
フルート型またはチューリップ型のグラスを選べばさらに効果的です。
サイゼリヤのスパークリング「ドンラファエロ」はボトルで1,100円です。これを5人でシェアすれば1人あたり220円です。品質的にも「合格点以上」とソムリエが評価している一本なので、グレーラの特徴を頭に入れた上で注文すると、味わい方が格段に変わります。
ソムリエ田邉公一さんによるサイゼリヤワインのペアリング解説(SPUR.JP)
グレーラには、ワイン業界でも珍しいドラマチックな歴史があります。そのポイントは「2009年」という転換点にあります。
それ以前、このブドウはワイン名と同じ「プロセッコ」という品種名で呼ばれていました。世界的にプロセッコの人気が高まるとともに、イタリア以外の国(オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンなど)でも「プロセッコ」という名称を使ったワインが造られ始めました。産地と無関係な場所で「プロセッコ」の名を名乗るワインが世界中に広がることで、本家のブランドイメージと品質保証が損なわれるリスクが生じたのです。
イタリア政府はこの問題を解決するために2009年、プロセッコを原産地呼称(DOC/DOCG)として法的に保護しました。同時に、ブドウ品種名を旧来の地名に由来する「グレーラ」という古い名称に切り替えました。これにより「プロセッコ」という言葉はワイン名・産地名専用となり、ブドウ品種はグレーラと呼ばれるようになったのです。
つまり、名前を変えてブランドを守ったわけです。
この改名がもたらした副作用が、今もグレーラという品種名が一般に知られにくい原因となっています。プロセッコを飲んでいても、グレーラというブドウ名を意識する機会がほとんどないからです。産地の格付けも整備され、コネリアーノとヴァルドッビアーデネ地区のプロセッコはイタリア最高格付けのDOCGに認定されています。さらに「リーヴェ(43区画の特定区画)」と「カルティッツェ(全DOCGのわずか1%の最高峰区画)」という上位の産地区分も存在します。
サイゼリヤのスパークリングを一口飲む前に、このブドウの歴史を思い浮かべてみてください。1本1,100円の泡の背後に、ブランドを守るためのイタリア政府の政策と、何百年もの栽培の歴史が詰まっています。