市販のブドウジュースをそのまま使うと、本物のモストコットは絶対に完成しません。
モストコット(mosto cotto)とは、イタリア語で「加熱したブドウ果汁」を意味します。「モスト(mosto)」はブドウの搾りたて果汁、「コット(cotto)」は「煮た・加熱した」という意味で、名前がそのまま製法を表しています。外見はつやのある黒蜜のような液体で、スプーンを傾けてもすぐには落ちないほどのとろみがあります。
サイゼリア好きの方には、バルサミコ酢のほうが馴染み深いかもしれません。実は、そのバルサミコ酢の唯一の原料がモストコットです。ブドウ果汁を煮詰めてモストコットを作り、それを木樽に移して発酵・熟成させると、バルサミコ酢になります。つまりモストコットは「バルサミコ酢の手前の姿」とも言えます。
両者の大きな違いは、発酵の有無と酸味の強さです。バルサミコ酢は長期熟成によって独特の酸味とコクが生まれますが、モストコットは発酵させないため、酸味よりもブドウ本来の甘みと深いコクが前面に出ます。チョコレートやプルーンのような複雑な香りが特徴で、料理に加えると不思議な奥行きが生まれるのです。これは使えそうです。
モストコットはイタリアでも生産地でないと手に入りにくい食材で、イタリアの普通のスーパーでもほとんど見かけないのが現実です。エミリア・ロマーニャ州、プーリア州、サルデーニャ州などのワイン産地では家庭で手作りしたり、知人から分けてもらったりする文化が今も続いています。
別名として「サパ(sapa)」「サバ(saba)」「ヴィンコット(vincotto)」とも呼ばれます。語源はラテン語の「sàpor(風味・味)」に由来するとされており、古代ローマ時代から使われてきた歴史のある調味料です。
モストコットの味わい方とレシピ集について詳しく解説しているページ(BACCHETTE E POMODORO)
モストコットを家庭で作るうえで、まず押さえておきたいのがブドウ選びです。普通の食用ブドウ(デラウェアや巨峰など)でも作れないわけではありませんが、糖度が高いワイン用ブドウを使うほうが、風味の深いモストコットに仕上がります。イタリアではトレビアーノ種(白ブドウ)やランブルスコ種(赤ブドウ)が使われますが、日本では入手が難しいため、市販の無添加ブドウ100%ストレートジュースで代用する方法が現実的です。糖度が高いものを選ぶのが条件です。
実際の作り方の手順は以下のとおりです。
イタリアの本場では、ブドウ100kgから約350Lのモストコットができると言われています。家庭の鍋で500mlのジュースを煮詰めると、最終的には150〜250ml程度しか出来上がりません。コップ1杯分が1本のジュースから作れるイメージです。
煮詰め時間が短すぎると、サラサラとした甘い液体になるだけで、独特の風味が十分に出ません。時間をかけることが基本です。一方、火が強すぎると焦げてしまい、苦みが前面に出てしまいます。弱火と時間が命です。
なお、本場イタリアでは専用の大釜と油圧式圧搾機が使われる大掛かりな作業で、モデナのバルサミコ酢の醸造家が作るモストコットは12時間かけて煮詰め、漆黒の液体に仕上げます。家庭の作業はあくまでそのエッセンスを楽しむものですが、じっくり時間をかけることでぐっと本格的な味わいに近づきます。
イタリア・モデナ在住の管理栄養士によるバルサミコ酢・モストコット作りの体験レポート(イタリアざんまい)
家庭でモストコットを作るときに最も多い失敗は「火が強すぎる」ことです。沸騰を続けると、ブドウ果汁に含まれるポリフェノールや糖分が急激に変性し、えぐみや焦げ臭さが出てしまいます。本場イタリアでも「沸騰させずにじっくり」が鉄則とされており、温度を上げすぎないことが最大のポイントです。
具体的には、鍋に果汁を入れて中火にかけ、表面に小さな気泡がぷつぷつと出てきたタイミングですぐに弱火に落とします。その後は蓋をせずに、水蒸気を積極的に逃がしながら煮詰めていきます。蓋をすると水分が逃げにくくなり、煮詰め時間が大幅に長くなるうえ、仕上がりのとろみも出にくくなります。蓋なしが原則です。
煮詰め具合の確認方法も覚えておくと便利です。冷たいお皿(冷蔵庫で冷やしたもの)に少量を垂らし、指でなぞったときに線がきれいに残れば完成の目安です。ジャムの煮詰め具合を確認するのと同じ方法です。仕上がりのとろみは黒蜜やハチミツよりやや軽い程度が理想です。
保存については、清潔な瓶に入れて冷蔵保存すれば約3〜6か月持ちます。ただし、糖度が高いとはいえ防腐剤などは一切入っていないため、雑菌が入らないよう瓶は必ず煮沸消毒してから使いましょう。
| 項目 | 目安 |
|------|------|
| 煮詰め時間 | 3〜12時間(弱火) |
| 仕上がり量 | 元の果汁の約1/3〜1/2 |
| 火加減 | 沸騰させない・弱火キープ |
| 保存期間 | 冷蔵で3〜6か月 |
| 使用量の目安 | 料理1皿に大さじ1程度 |
万が一煮詰め過ぎてしまった場合は、少量の水を加えて弱火にかけ、再度溶かして調整することができます。固まりすぎてしまったら、そのままキャンディーのように固まった状態で使っても、チーズやアイスクリームにのせると風味豊かなトッピングになります。意外ですね。
モストコットが完成したら、いよいよ活用の出番です。サイゼリアが好きな方にとって特に相性が良いのが、チーズとのペアリングです。サイゼリアのメニューにもあるパルミジャーノ・レッジャーノやモッツァレラ、あるいはリコッタなどのフレッシュチーズに、モストコットを数滴垂らすだけで一気にイタリアの食卓の雰囲気が出ます。
モストコットのおすすめ活用シーンをまとめると、以下のとおりです。
特にサイゼリア好きの方が家でイタリアン気分を楽しみたいときに活躍するのが、チーズ+モストコットの組み合わせです。スーパーで手に入る200〜300円のモッツァレラチーズに垂らすだけで、高級イタリアンのような味わいが楽しめます。出費を抑えながらクオリティを上げられます。
また、牛や鶏の煮込み料理に大さじ1ほど加えると、それまでばらついていた酸味と旨味がすっとひとつにまとまる効果があります。ある料理研究家の表現を借りると「スーツ姿に最後のネクタイを結んだときのような整い方」と言われるほど、料理全体をまとめる力があります。これは料理の隠し味として非常に優秀です。
ぶどうを扱う専門家によるモストコット実食レポートと料理活用例(notas media)
手作りに挑戦したいけれど時間がないという方には、市販品を購入するのも十分おすすめです。日本でもAmazonや楽天市場などの通販サイトでイタリア産のモストコットが購入できます。価格は250ml〜500mlで1,500円〜3,500円前後が相場です。これは有料です。
市販品を選ぶ際のポイントは、原材料欄に「ブドウ果汁」のみが記載されているものを選ぶことです。砂糖・着色料・保存料などが添加されているものは、本来のモストコットとは風味が異なります。D.O.P.(イタリアの保護指定原産地表示)の認定を受けた原料を使用したものは品質が保証されており、信頼の目安になります。
また、モストコットには熟成年数が表示されているものもあります。4年熟成のものは3,000円前後から、それ以上になるとさらに価格が上がります。初めて試す場合は、1,500〜2,000円程度の250mlサイズのものから始めると量的にも試しやすく、使い切りやすいのでおすすめです。
イタリア食材専門店であれば、より品種や産地の詳細が把握できるものが揃っています。オンラインではベリッシモ(bellissimo.jp)などのイタリア食材専門通販が豊富なラインナップを持っています。購入前に産地・原材料・熟成の有無を確認することを心がけましょう。
なお、内堀醸造(日本の老舗酢メーカー)がモストコットを原料に使った国産バルサミコ酢を販売しており、そちらを参考にするとモストコットの品質基準のイメージがつかみやすくなります。日本産の試みも広がっています。
イタリア食材専門通販ベリッシモでのモストコット購入ページ(bellissimo.jp)