サイゼリヤのミラノ風ドリア(税込300円)は、実はこの料理がなければ生まれていなかったかもしれません。
オッソブーコとは、イタリア・ミラノを中心とするロンバルディア州を代表する伝統的な煮込み料理です。イタリア語で「オッソ(osso)」は「骨」、「ブーコ(buco)」は「穴」を意味し、直訳すると「穴の開いた骨」となります。
なぜ「穴の開いた骨」なのかというと、骨付きの仔牛すね肉を長時間煮込むと、骨の中にある骨髄が溶け出してじわじわとソースに広がり、骨の断面に穴が開いたように見える外観になるからです。この見た目の特徴がそのまま料理名になっています。つまり「骨の形状」が名前の由来です。
食材の主役は骨付き仔牛すね肉で、厚さ約3〜4cmの輪切りにしたものを使います。サイズのイメージとしては、横幅がCD(約12cm)くらい、厚みがスマートフォン(約1cm)の3〜4倍ほどです。この肉を香味野菜(玉ねぎ・にんじん・セロリ)と白ワイン、ブイヨンと一緒に弱火で2〜3時間かけてじっくり煮込みます。
これは使えそうです。すね肉はゼラチン質とコラーゲンが豊富な部位で、長時間加熱することで固い筋肉繊維がほろりとほどけ、骨髄の脂分と旨み成分が溶け出してソースが豊かなコクを持つ仕上がりになります。調理後の肉は箸でも崩れるほど柔らかく、骨の中のとろりとした骨髄も小さなスプーンですくって食べるのが本場イタリアの作法です。
なお、現地ミラノの方言では「os büs(オス・ビュス)」と呼ばれていたものがイタリア語に転じて「ossobuco」という表記・発音になったとされています。複数形は一般的に「ossibuchi(オッシブーキ)」が使われます。
【Wikipedia】オッソブーコの料理概要・基本情報(語源・地域・歴史)
オッソブーコの起源は中世にさかのぼるともいわれますが、現在の形に近いレシピが確立されたのは主に19世紀のミラノとされています。当初は素朴な農民料理として親しまれており、今日のように洗練されたレストランメニューではありませんでした。
ここで少し驚く歴史的事実があります。「伝統的なオッソブーコはトマトを使わない」という説が、イタリア料理人の間で語られています。トマトはコロンブスが1492年に南米からヨーロッパへ持ち込んだ食材であり、それ以前のヨーロッパには存在しませんでした。そのため、オッソブーコが生まれた古い時代のレシピには、そもそもトマトが入っていなかった可能性があります。古典的なミラノ風レシピでは、香味野菜をじっくり炒めた「ソフリット」と動物性の出汁「ブロード」だけで旨みとコクを作り出すのが原型だったとも考えられています。
時代が下るにつれ、トマトやトマトペーストを加えるスタイルも一般化しました。現在のレストランメニューでは「白」(トマトなし)と「赤」(トマトあり)の両バリエーションが存在します。どちらが正統かは料理人によっても見解が分かれるところで、これがオッソブーコの奥深さのひとつです。
ミラノの食文化において、オッソブーコは単独で食べるものではなく「サフランリゾット(リゾット・アッラ・ミラネーゼ)」とセットで供されるのが伝統とされています。鮮やかな黄色のリゾットはサフラン・バター・パルミジャーノチーズで作られており、煮込み肉の濃厚なソースを少しずつリゾットに混ぜながら食べるスタイルが定番です。本場のレストランでは1皿あたり25〜35ユーロ(約4,000〜5,600円)前後で提供されることが多く、ミラノを代表するご馳走料理として位置付けられています。
【シェフレピ】イタリア料理人・関口幸秀シェフが解説するオッソブーコの歴史と伝統的調理法
オッソブーコの最大の魅力は、3つの要素が組み合わさった独特の構成にあります。骨髄・グレモラータ・サフランリゾット、それぞれの役割を理解すると、この料理の深みがよくわかります。
まず「骨髄」です。骨髄は脂質・コラーゲン・アミノ酸の宝庫で、とろけるような食感と濃厚なコクを持つ部分です。グルタミン酸などの旨み成分が豊富に含まれており、2〜3時間の煮込みで溶け出した骨髄エキスがソース全体を豊かにします。食べる際には小さなスプーンで骨の中からすくい出していただくのが作法で、これを「骨髄の醍醐味」と表現するイタリア人も多くいます。骨髄は健康面でも注目されており、コラーゲン・必須アミノ酸・ミネラルを含む「飲む点滴」とも呼ばれるボーンブロス文化の源流にある食材です。
次に「グレモラータ」です。グレモラータはパセリのみじん切り・レモンの皮のすりおろし・ニンニクのみじん切りを混ぜ合わせた薬味で、ミラノ風オッソブーコには欠かせません。長時間煮込んだ肉料理は旨みが凝縮される一方、こってりとした重さが出やすくなります。グレモラータの爽やかなレモン香とハーブの清涼感が最後の一口まで飽きさせない役割を担っているのです。仕上げに振りかけるだけの手順ですが、この最後の工程の有無で味のバランスが大きく変わります。グレモラータが条件です。
最後が「サフランリゾット」との組み合わせです。サフランはリゾットを黄金色に染めるスパイスで、独特の香りとわずかな苦みが特徴。価格は1グラム1,000〜3,000円ほどと高価な食材ですが、少量でリゾット全体を均一な黄色に染め上げます。このリゾットがオッソブーコの濃厚なソースを受け止め、重さを和らげながら旨みを底上げする役割を果たします。
【ぱんたれい】イタリア現地で教わったトスカーナ風オッソブーコの特徴と付け合わせの文化
サイゼリヤのファンなら知っておきたい、この2つの料理のつながりがあります。
サイゼリヤの人気No.1メニュー「ミラノ風ドリア(税込300円)」は、日本で生まれたオリジナル料理です。正確にはイタリアのミラノに存在しない料理で、1983年頃にサイゼリヤが開発したものとされています。ところが、ミラノにはこのドリアの「精神的なルーツ」とも言える文化があります。それがオッソブーコとサフランリゾットの組み合わせです。
サフランで黄色く染めたご飯の上にミートソースとチーズをかけた「ミラノ風ドリア」の構造は、サフランリゾット+上にかかる肉料理のソース、というミラノの食スタイルとある部分で重なっています。「ミラノ風ドリアのルーツをたどりにたどると、オッソブーコ&ミラノ風リゾットにたどり着くのではないか」という指摘を、料理研究家がSNSで発信して話題になりました。
さらに、サイゼリヤは2021年12月から2022年3月にかけて「リゾット&牛すね肉のシチュー(900円)」をグランドメニューとして提供しました。牛すね肉を赤ワインとデミグラスソースで煮込み、サフランとバター・チーズのリゾットにのせたこのメニューは、まさにオッソブーコ&サフランリゾットというミラノの伝統料理構成をベースにしたものでした。これは意外ですね。
つまり、サイゼリヤのミラノ風ドリアを「美味しい」と感じている人は、知らず知らずのうちにミラノのオッソブーコ文化が生み出した「サフランリゾット+肉料理の組み合わせ」の美味しさを体感していたといえます。オッソブーコを知ることは、サイゼリヤの一番人気メニューの背景にある本場イタリアの食文化を理解することにつながります。
【サイゼリヤはちゃんとおいしい】リゾット&牛すね肉のシチューの詳細とオッソブーコとの関係性
オッソブーコは高級レストランの料理というイメージが強いですが、基本的な手順を押さえれば自宅でも作ることができます。ポイントは「材料の入手」と「煮込み時間の確保」の2点です。
まず材料について、仔牛のすね肉(骨付き輪切り)は一般的なスーパーではなかなか見かけません。通販サイトや輸入食材専門店、精肉専門店で購入するのが現実的な方法です。目安の価格は、仔牛オッソブーコ1枚あたり約800g〜1.2kgで4,200〜5,300円前後(税込)となっています。仔牛が入手できない場合は、普通の牛すね肉(骨なし)でも代用可能で、スーパーで100gあたり150〜300円程度で入手できます。骨髄の部分は楽しめませんが、コラーゲン豊富な煮込みとしての美味しさは十分に再現できます。
次に基本的な工程のポイントを押さえましょう。まず、すね肉は煮崩れ・反り返り防止のために骨のまわりの筋を数か所キッチンバサミでカットし、両面に薄く小麦粉をまぶします。鍋にバター+オリーブオイルを熱して肉の表面に焼き色をつけ、一度取り出します。同じ鍋で玉ねぎ・にんじん・セロリを炒めてソフリット(香味野菜ベース)を作り、白ワインで旨みをこそげながら肉を戻し、ブイヨンと共に弱火で1時間半〜2時間煮込みます。これが基本です。
仕上げのグレモラータはパセリのみじん切り・レモンの皮のすりおろし・ニンニクを混ぜるだけなので、火を止める直前に加えるだけで格段に風味が上がります。圧力鍋を使えば煮込み時間を30〜40分程度に短縮することが可能で、平日でも挑戦しやすくなります。ミラノ本場の雰囲気を楽しむなら、市販のサフランパウダー(100円均一でも入手可能)でサフランリゾット風のご飯を炊いて添えれば、見た目にも本格的な一皿が完成します。
| 材料 | 目安量(4人分) | ポイント |
|---|---|---|
| 仔牛すね肉(骨付き輪切り) | 4枚 | 厚さ3〜4cm。なければ牛すね肉で代用可 |
| 白ワイン | 200ml | アルコールを飛ばして使用 |
| ブイヨン | 200ml以上 | 市販のコンソメをお湯で溶いてもOK |
| 香味野菜(玉ねぎ・にんじん・セロリ) | 各適量 | みじん切りにしてソフリットを作る |
| グレモラータ(パセリ・レモン皮・ニンニク) | 少量 | 仕上げに振りかけるだけ。省略不可 |
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